E.タール著「トランペットの歴史」

昨年の6月に日本のショット・ミュージックから発売されたもの。エドワード・タール著、中山冨士雄訳。
http://www.schottjapan.com/news/2012/120731_170037.html
タールはヨーロッパの人だと思っていたのだが1936年アメリカ生まれとのことで、1959年からヨーロッパで活動し、1972~2001年バーゼル・スコラ・カントルム、現在カールスルーエ音楽大学教授。トランペットの演奏と研究の第一人者とされている。
中山冨士雄氏(1918~1997)は長年東京藝術大学の教授を務め、日本のトランペット教育に多大な功績を残した方。実は私自身も1970年代末にオーケストラでご指導を受けたことがある。
ドイツ語による原書は1977年に出版されており、中山氏による下訳は1980年代に完成されていたとのことだが、出版には至らず、その後洋子夫人、弟子の永井浄氏、ショット・ミュージック株式会社などの協力により加筆修正され、ようやく出版に至ったという。
紀元前から現代までのトランペットの歴史/変遷について、各時代の社会的背景を交えて解説しており、貴重な図版も多く収録されている。トランペットを演奏する人にとっては必読の書と思うし、そうでない人が一般教養として読んでも面白い。特にマーラー始め、ブルックナー、J.シュトラウスやシベリウスなどが用いた長管のF管の歴史については、指揮者はもちろん管楽器をやる人にとっても知っておくべきテーマだと思う。

なお、私の関心ごとである、モーツァルトが使用した「クラリーノ」と「トロンバ」の違いについては何の記載もされていなかった。ちなみに、佐伯茂樹氏による名著:「名曲の<常識><非常識>」(音楽之友社/2002) においては、両者の使われている音域には大差はないが、「トロンバ」の方が低い自然倍音を中心としたシンプルなパートが多く(ハ音記号で指定されていることもある)、そして「クラリーノ」にはファとファ♯の使い分けなど単なる自然倍音のトランペットでは困難な音程を求められていることが多いことから、普通のナチュラル・トランペットとは別の音程調節手段を持っていた可能性が高いのではと推論/解説されている。

そして、この本の中でひじょうに参考になった箇所を下記に抜粋する。
ヨーゼフ・シュタルツァー(1726~1787)の、2本のシャルモー(クラリネットの前身)、5本の弱音器付トランペット、2対のティンパニというめずらしい編成のディヴェルティメントは、あるところではシャリュモーで、またあるところではトランペットやティンパニで、ハ長調やト長調だけではない調性への転調の可能性を探っている。トランペットは3本のハ管と2本のニ管で、ティンパニはハ、ト、ニ、イに調律されている。この曲は、若い頃のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(あるいは父親のレオポルト・モーツァルトかもしれないが)がオーケストレーションの練習用に採り上げた。ヴォルフガングあるいはレオポルトはシュタルツァーのこの曲を、シャリュモーを2本のフルートに置き換えて筆写し、これに数楽章――クリストフ・ヴィリバルト・グルックのオペラ「パリーデとエレーナ」からの抜粋で、新しい楽器編成になっている――を加えて続けているが、この作品はケッヒェルによってK187を与えられている。同じ編成の別のディヴェルティメント(K188)は、ヴォルフガングによる完全な創作のようである。シュタルツァーは、第1ハ管トランペットにはしばしば第16倍音を要求する一方、第1ニ管トランペットには1回しか用いていない。また、トランペットには特別興味のなかったモーツァルトは、K188において、シュタルツァーほど高音を頻繁には使っていない。
K187について、ザスラウの書では、
親子はこの編成のために、ヨーゼフ・シュタルツァーとグルックが書いたヴィーンのバレエ組曲を編曲しており、モーツァルトはこのオリジナルのディヴェルティメント(K188)を作曲している。
という内容になっているが、おそらく今回の内容の方がより正確な記述なのであろう。「弱音器付」という指定は相対的な音量の点からも納得させられる。

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