ハイドン:交響曲第100番ト長調「軍隊」

来月の演奏会でこの曲を演奏する。第85番以降では、第92,93,98,99番とこの曲がまだ演奏したことがない曲として残されている。厳密に言えば第2楽章のみ、学生時代に演奏したことがあるのだが全曲は今回が初めて。以下、曲の概要についてレビューしてみた。

1794年2月、ハイドンは2度目のロンドン訪問を行い、1795年夏までこの地に滞在した。その滞在中に第99番から第104番までの6曲の交響曲を書き上げ、初演している。これらはハイドンが作曲した最後の交響曲群(「ザロモン・セット」と呼ばれる12曲の後半)であり、どれも充実した内容となっている。
その中でも「軍隊」交響曲は、「時計」、「驚愕」(1791年作曲)と並んで最も有名な曲であり、全楽章に渡り魅力的な旋律に溢れ、特に終楽章の構成/プロポーションは見事と言うしかない。さらに、予想もしない転調、突然の全休止、第2楽章コーダでの大転換、ティンパニのソロなどハイドン特有のユーモア、創意工夫が至るところで感じられる。

●「軍隊/Military」の呼び名について
「軍隊」という愛称は、「トルコ軍楽」の打楽器(トライアングル、シンバル、大太鼓)が第2楽章と第4楽章の終わりで使われていることによるが、他にも、第2楽章コーダのトランペットの軍隊信号に基づいているとの説もある。いずれにしても、この曲の初演に関する新聞予告には既に「軍隊交響曲」という呼び方が(おそらくハイドン自身の賛意を伴って)使われている。
18世紀のヨーロッパでは、様々な「トルコ風音楽(トルコ軍楽のリズムや音色を意識したもの)」が流行として取り入れられていた。しかし、ハイドンの心の中には、既に終わったトルコとの戦争の恐怖が深く印象づけられており、トルコ風楽器の選択はエキゾチックで面白いものを目論んだ(あるいは軍事的称賛)、と言うよりも、むしろ「警告」として供されたのではないか――その意味でこの曲は”Anti-Military”シンフォニーと呼ぶことが許されるかも知れない、そのように解釈することによって、激しい戦闘のような繰り返し発生する爆音を包み込んだハイドンの表現も もっともらしく感じられる、との説*もある。

●作曲時期
1786年頃 第2楽章の原曲:「2台のリラ・オルガニザータのための協奏曲**」第3番作曲
1793年 第3楽章作曲に着手
1794年 第1、4楽章をロンドンで作曲、第2楽章改訂
1794年3月31日 第8回ザロモン・コンサートで初演(「時計」交響曲より後)
――初演時から絶大な人気を博し、その後何度となく再演された。
「軍隊」の最も有名な楽章が、以前に作られた曲の転用であることはあまり知られていないのではと思う。原曲の第2楽章は同じアレグレットで「ロマンス」の表示がある。
http://zauberfloete.at.webry.info/200703/article_4.html
オーケストレーションは異なるが、148小節(トランペットのファンファーレの直前)まで両者のメロディライン、バスは全く同一で、原曲はシンフォニーの151、152小節に移行し静かに終了する。
改訂にあたっては、打楽器の付加を含むオーケストレーションの変更およびトランペットのファンファーレを含む37小節のコーダが追加されている。これにより、抒情的な「ロマンス」の雰囲気を一変させ、不安をかきたてる威嚇的な効果を生み出している。

●楽器編成
弦楽5部、フルート2***、オーボエ2、C管クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2****、ティンパニ、トライアングル、シンバル、大太鼓*****
C管クラリネットは第2楽章のみ、トライアングル、シンバル、大太鼓は第2、4楽章のみ

●楽章構成
第1楽章 :アダージョ ト長調――アレグロ ト長調 / 序奏の付いたソナタ形式
第2楽章 :アレグレット ハ長調 / 変奏を取り入れた三部形式
第3楽章 :メヌエット モデラート ト長調――トリオ ト長調
第4楽章 :フィナーレ プレスト ト長調 / ロンド風のソナタ形式

●特徴 / 新しい趣向
・ハイドンの交響曲の中で最も大きな編成である
・トライアングル、シンバル、大太鼓というトルコ軍楽で使われる打楽器を使用している
・第1楽章第1主題が2本のオーボエとフルートによって演奏され、その第1主題は8小節間途切れることなくつながっていく
・第3楽章メヌエットは、最初の8小節は繰り返されず、次に新しく8小節を書き足しており、後半も主題の展開、再帰と終結部と大規模な構成になっている
・第4楽章第1主題にイギリスの舞曲の旋律を用いている
・第4楽章の打楽器群は最後の最後(265小節)になって登場する
→ブリュッヘンやヤンソンスのように、打楽器群を行進しながら演奏させる演出もある
ブリュッヘン(冒頭のみ)
http://www.classicajapan.com/wn/2009/02/230011.html
ヤンソンス(23’30”あたりから)
https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12223337624.html

(注)
*Wolf-Eberhard von Lewinski / アーノンクール=ロイヤル・コンセルトヘボウO / ハイドン交響曲集(WARNER)の解説書
**1786年にナポリ王フェルディナント四世から作曲の依頼があり、ハイドンは全部で5曲の協奏曲を作曲、リラ・オルガニザータとは、ハーディ・ガーディ(手回しヴァイオリン)とシンプルな小型オルガンを組合せた楽器で、その後廃れてしまう
***フルートは1パートのみで、ハイドンはSolo、Tuttiの書き分けを行っている
****第2楽章のファンファーレは2ndトランペットのソロ(スコアによってはa2 / 2本重ねる指定になっているものもある)
*****大太鼓に関し、上記*の中に下記のような記述があった
バス・ドラムはフェルトで包んだスティックで演奏、またはbirch(樺)broom(ほうき)でwhipする(鞭打つ)

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    Excerpt: ハイドンの交響曲において、初期のものには「朝」「昼」「晩」の3部作および数曲を除きフルートはほとんど使われておらず、1770年代後半になると1本のフルート、第93番以降は概して2本のフルートが使われて.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2018-06-15 22:19