「フィガロの結婚」/アーノンクール

アーノンクール=ロイヤル・コンセルトヘボウOの「フィガロ」(TELDEC/1993)を図書館で借りてきた。声楽ソリストはハンプソン、マルジョーノ、ボニーほか。演奏自体もなかなかユニークなものだったが、解説書にアーノンクールによる下記のような興味深い発言/記述が載っている。

アーノンクールとヨアヒム・カイザーとの対話 から抜粋
序曲におけるフォルテピアノの記譜法は、それが小節全体に適用されることを示しています。すなわちフォルテ-デクレッシェンド-ピアノであり、fpは省略にすぎません。もしどこでピアノにするか特定する必要がなかったら、作曲家は常にフォルテピアノを記しました。モーツァルトがフォルテやピアノにすべき箇所を特定しようとした場合は、常に自分が望む箇所へフォルテやピアノを正確に書きました。スフォルツァート・ピアノ、つまりまず強いアタック、そしてすぐに弱音にしたい場合、適宜それを書き記そうとしました。いずれにしても、これは「フィガロ」ではかなり頻繁に使われていますが、普通の記譜法ですし、彼は使いたい箇所で使うことができたのです。

→だとすると、今までは fpを上記のスフォルツァート・ピアノのように演奏するものだと思っていたがそうではないことになる。なお、sfp という表記は第2曲デュエッティーノ後半始め数箇所で使用されている。

●調性とは、ある調律システムの一部として感じられるに過ぎないからです。今日、このことについて音楽家に質問したら、ホ長調はヘ長調より半音低いという答えが返ってくるでしょう。しかし、音楽用語としてこれが意味する所を意識している人はほとんどいません。ピッチが低いということ以外で、ホ長調と他の調を区別するものを知る人はほとんどいないのです。それに音楽家たちはすべての調がまるでハ長調を移調したものであるかのように思う傾向があります。長三和音の純粋さは調性ごとに異なります。例えば、ホ長調における嬰ト音はヘ長調におけるイ音より高いのです。こうした理由によって、ヘ長調の純粋さはホ長調にまさるわけです。

→私もこのようなことは全く知らなかった。調べてみようと思ったがどのように調べれば良いものか・・・。

モーツァルトのテンポ――「フィガロの結婚」を中心に から抜粋
●「コシ・ファン・トゥッテ」と「ドン・ジョヴァンニ」では、アンダンテ、二分の二拍子という柱になるテンポがあり、この二つのオペラはそのテンポによって始まり、主要モティーフのように重大な局面で繰り返し現れるのである。
「フィガロ」では、テンポ構成は非常に変わっている。このオペラにはラルゴもないし、アダージョもない(ケルビーノの最初のアリアにおけるだい92~95小節は除く)、穏やかなテンポはラルゲットとアンダンティーノなのである(後者はどの出版譜にも欠けている)。それに対して、モーツァルトでよく見られるアレグロ二分の二拍子はほとんど現われず(ケルビーノの最初のアリアと伯爵のアリアのみ)、そのうえさらに加速され、アレグロ・ヴィヴァーチェとかアレグロ・アッサイになるのだ。奇妙なことに、この二つのアリア―全曲中で最もテンポが速い―は、今日ではむしろくつろいだような雰囲気を持つと思われている(後略)。


●ほかの「率直な」アレグロはすべて四分の四拍子なのだ! この場合では、奇妙なことに「伝統なるもの」(長くはない伝統である)はしばしば非常に速いテンポを行使する。特に第二幕のフィナーレはたいてい不当に速いアッラ・ブレーヴェで演奏される(後略)。

●序曲はいわば無からだが、ピアニッシモ、速いテンポで始まる。テンポ指定はプレスト四分の四拍子である。他の二つのオペラの序曲における速い部分のテンポ――「ドン・ジョヴァンニ」はモルト・アレグロ、二分の二拍子、「コシ」はプレスト、二分の二拍子――と比べてみればいいが、「フィガロ」では遅めのテンポが指示されており、それに対しこの序曲がたいていは非常に早く演奏されすぎていることを認識すべきである。モーツァルトが誤りを犯しているのではない。なぜなら四分の四拍子はあきらかにこのオペラの柱として立っているのだから。

→このテーマについては、以前 cherubino さんによる興味深い分析が行われている。
http://gospels.cocolog-nifty.com/classic/2012/02/post-1db3.html
http://gospels.cocolog-nifty.com/classic/2012/02/post-5003.html

あらためて「フィガロ」の全曲スコアをじっくり見直してみたのだが、確かにアーノンクールが指摘している通り、「フィガロ」において四分の四拍子は中心的な拍子と思われる。
今回、アーノンクールの演奏を聴いてみて、(序曲の四分の四拍子の表記について)以前はモーツァルトの(拍子記号の)書き間違いではないかと考えていたのだが、そうでもないようにも思えてきた。
そもそも、何拍子かということは、(指揮者が)いくつで振るかということもあるが、演奏者が一小節をいくつで数えるか/感じるか、ということでもあり、フィガロの序曲でいえば、
ラララン/ララララララ/ラララン(二拍子)
と考えるか、
ン/ラ/ン(四拍子)
のように考えるかということだと思う。
後者の場合、いちいち念を押すような感じにはなるのだが、速いテンポでも弾き飛ばさないような慎重な歩み(躍動感よりも粘着感?)が期待されているのかも知れないのでは、とも思える。
http://zauberfloete.at.webry.info/200906/article_10.html

●一方、中庸のテンポ――モーツァルトで言えばアンダンテ――はしばしばあまりにも遅く演奏され過ぎる(伯爵夫人の2番目のアリア"Dove sono"やフィナーレの許しのシーン"Contessa perdono")。このテンポ指示はアダージョの性格を回避するべく故意に選ばれたもので、いわば「遅すぎないように願います」と言っているようなものである。

→「魔笛」の第17番パミーナのアリアでも同じようなことが言われている。
http://zauberfloete.at.webry.info/201609/article_20.html

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この記事へのコメント

右近
2017年02月04日 23:55
こんにちは。

4/4と2/2のアクセンチュエーションに誤解がおありのようですね。
4/4は強弱強弱、
2/2は強弱、
です。
つまり4/4のタラタラタンは1つ目と3つ目のタが2つ目のタより強く。
2/2アラ・ブレーベの場合は1つ目のタが1番強く、3つ目のタは2番目よりは強いですが、1番目よりは弱いです。

ですので、4/4の時は、2つ振り、
2/2の時は1つ振りが最も相応しいでしょう。

ただ、フィガロの頭はスラーがあるので、最初の6小節間はひとつで考えます。
7小節目からの八分音符の連打から、拍節をハッキリ出せますね。
4/4で考えた時の1拍目と3拍目にアクセントが来るのは音楽的に納得行くと思いますし、7小節目から突然強拍が増え、胸が高鳴ります。



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