チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲~その2 クレーメル、ムローヴァ、シャハム、みどり~

●クレーメル/マゼール=ベルリン・フィル(DG/1980)
クレーメルのヴァイオリンは、テクニック的には優れているものの、とりたてて音色が美しい訳ではなく、ドラマティクに聴かせるタイプでもない。しかし、この録音にフィルアップされているチャイコフスキー:「憂鬱なセレナーデ」はこの曲の最も優れた演奏であると個人的には思っている。
クレーメルの音色は地味で線も細く、濃厚さはあまりなくサラリと弾いている印象。特に切れ味の鋭さもあまり感じられない。とはいえ、第二楽章40小節から60小節あたりまでの持って行き方はかなりの説得力を持っている。
オケはカラヤン時代のベルリン・フィル(フルートはおそらくブラウ、オーボエは不明)。冒頭の木管や9小節目からのコントラバスの響きなどは他の演奏とは一線を画している。また、第一楽章127小節からのトゥッティでのトランペットの三連符の強調などはマゼールらしい。
終楽章冒頭ではややヴァイオリンが不安定な印象も受けるが、その後はかなり気合が入っている。540小節あたりからの盛り上げ方はオケともども凄い。
なお、省略は一切なくオリジナルに忠実。ただし、450小節からのポコ・ア・ポコ・ストリンジェンドのパッセージは装飾的なものに替えられている。

●ムローヴァ/小澤征爾=ボストンSO(PHILIPS/1985)
おそらくこれまで私が最も多くの回数聴いた演奏だと思う。概してテンポはやや速め、良い意味で平均的でオーソドックスな演奏。ムローヴァのヴァイオリンは伸びやかで気品がありどちらかと言うとさっぱりした音楽づくり。第二楽章などやや禁欲的過ぎるとも思えるが、音楽の流れは自然で好感が持てる。なお、カットはないが450小節からのヴァイオリンのパッセージは差し替えられている。ボストン響もフィリップスの録音のせいなのか、重心の低い渋くヨーロッパ的な響きがして好ましい。

●シャハム/シノーポリ=フィルハーモニアO(DG/1991)
シャハムの音色はひじょうに美しく、テクニックも完璧、巧みに緩急をつけた歌い方はドラマティクで濃厚。第一楽章冒頭からたっぷりと歌う。第二楽章は弱音を活かした表現が素晴らしい。終楽章、2回あるポコ・メノ・モッソもちょっとユニークで堂々たる表現。
オケはいかにもイギリスのオケという感じで明るめの軽い音、シャハムの表現によく付けてはいるが、終楽章のヴァイオリンに答えるクラリネットがわずかに遅れたり、終盤での盛り上げにおいても微妙にかみ合っていない箇所があったりする。

●五嶋みどり/アバド=ベルリン・フィル(SONY/1995)
五嶋みどりのヴァイオリンはしっとりと落ち着いた響きで、テクニック的にも万全、丁寧でどっしりとした音楽づくりとなっている。特に第二楽章はベルリン・フィルの木管群の暗い響きも相まって素晴らしい名演となっている。78小節あたりからのクラリネットとの対話は絶品。が、終楽章、17小節からのモノローグ(?)はやや気迫に欠ける。アレグロに入ってからもやや安全運転気味で、アバドの指揮も煽るようなことはしない。驚いたのはカラヤン時代の(?)カットを採用していること。マゼールの録音はオリジナル版だったので、ベルリン・フィルに合せた訳ではないようだ。
*第三楽章カット箇所:69~80小節、259~270小節、295~298小節、303~306小節、423~430小節、476~487小節(6/21追記)
なお、196小節からのモルト・メノ・モッソの直前でテンポを落とすやり方は効果的。終盤にかけての盛り上げ方はさすがで見事なもの。全曲終了後、何と拍手が収録されており、この演奏がライブ収録だったということにあらためて驚く。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • アバドのディスク

    Excerpt: カラヤン派(?)だった私は、淡泊なアバドはあまり好きにはなれなかったのだが、タナを見たところ意外にアバドのディスクを持っていることがわかった。 こうしてみると、私にとって最も愛着があるのはレコードで.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2014-01-22 23:19