モーツァルト:交響曲第39番変ホ長調K543~序奏のテンポ~

モーツァルトの序奏つきの交響曲は、セレナーデなどの編曲ものを除くと下記の4曲に限られる。なお、第37番はミヒャエル・ハイドンの交響曲にモーツァルトが序奏だけを書いた作品であるが、一応これも序奏つき(序奏のみ)の交響曲に含めている。序奏部分の調性、速度(標語)と拍子指定は下記のようになっている。
○第36番ハ長調 アダージョ/四分の三拍子
○第37番ト長調 アダージョ・マエストーソ/四分の三拍子
○第38番ニ長調 アダージョ/四分の四拍子
○第39番変ホ長調 アダージョ/二分の二拍子
共通しているのはすべてアダージョの指定であること。さらに第39番の序奏は二分の二拍子(!)となっている。
4月の演奏会でこの曲を演奏するのだが、最近、元々モーツァルトが意図したこの序奏の速さはどのようなものだったのだろうかと考えている・・・。
そして今日、知人が出演するアマチュアオケの演奏会(プログラムの最後にこの39番が演奏された)を聴きに行った。指揮者(大河内雅彦)の解釈/演奏はなかなか説得力のあるもので、まず序奏。通常より速めの、四つ振りで四分音符=54くらいのテンポ。そしてアレグロも付点二分音符=54くらいと同じテンポ(?)で推移する。このような設定だと、序奏と主部がまったく別物ではなく、必然的なつながりを持っているように感じられる。主部への移行はひじょうに自然だったと思う。
そして第二楽章アンダンテ・コン・モートも、この楽章が八分の四拍子(このような演奏は多い)ではなく、四分の二拍子であったことをあらため気付かせてくれるもの。また、終楽章は前半、後半ともリピートを行いメインプロとしての存在感を示していた。全曲を通じて管弦打のバランスもよくコントロールされており、特に終楽章のフルートとファゴットの二回の掛け合いは弦楽器を極端に小さくするなど配慮が行き届いていたと思う。

さて、この第39番の序奏のアダージョ、これまでの一般的な(?)やり方では、極めてゆっくりなテンポで演奏されてきた(八つ振りをする指揮者もいる)。さらに22小節(フルート、ファゴット、ヴァイオリンのニ分音符の動き)あたりからさらに遅くする人が多いので、序奏と主部はまったく別物として扱われてきたように思う。
まず、手元のCDからいくつか取り出して速さを実測してみた。最初の数字:アダージョの序奏の四分音符/二番目の数字:アレグロの主部の付点二分音符のそれぞれの一分間の拍数。
○クーベリック=バイエルン放送響(SONY/1981) 44前後/48前後
○カラヤン=ベルリン・フィル(DG/1975) 42前後/50前後
○スウィトナー=ドレスデン・シュターツカペレ(Deutsche Schallplatten/1974) 40~42くらい/50前後
アダージョというのは、教科書的にはラルゴの次に遅い速さであり、一分間に58前後、もしくは54~76、あるいは66~76などいろいろな説がある。しかし40前後というのはラルゴに近いと言わねばならない。
そして、フンメルによる第39番のテンポ指定は、
アダージョ:四分音符=60、アレグロ:付点ニ分音符=58
となっている。
さらに、手元に音盤がないので実際の数値は確認できないが、アーノンクールは、ウィーン・フィルとの演奏、
http://zauberfloete.at.webry.info/200612/article_1.html
また、ヨーロッパ室内管弦団との録音においてもかなりの速さでこの序奏を演奏していた。
初めて聴いた当時は異常な感じがしたが、最近ではモーツァルトが本来意図していたのはこのような速いテンポだったのではないかと思っている。今日の演奏を聴いて、さらにそのように思えてきた。

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この記事へのコメント

佐伯です
2012年02月20日 07:40
こんにちは。39番の序奏のテンポ設定は興味深いですよね。最初にこれを2拍子のマーチだとして速くやったのはノリントンでした。ロンドンクラシカルプレイヤーズとの録音で。ティンパニをドラムとして鳴らす様は当時話題になりました。以来、この解釈でやる指揮者は古楽系には割と多いです。昔はギーレンもこの解釈でやっていましたね。ドンジョヴァンニ序曲、エグモント序曲の冒頭も同様です。
ひでくんママ
2012年02月20日 21:36
ド素人の、勝手な感想ですが・・・・

アダージョ + アレグロ というのは、私的には、ミサ曲につながるんですね。
ちょっと極端な言い方をすれば、モーツァルトのシンフォニーって、かなり、そうとう、声楽の無いミサみたい(汗)。
2012年02月20日 22:40
佐伯様
コメントありがとうございます。
モーツァルトの二分の二拍子というのは、結構無視されて四拍子で考えられていることが多いように思えます。特にピアノコンチェルトの緩徐楽章とか・・・。そして、ドン・ジョヴァンニやコジが二分の二拍子というのはわかるのですが、かと思うと、フィガロが四分の四拍子であったりするのは理解に苦しみます。
2012年02月20日 22:43
ひでくんママさま
コメントありがとうございます。ミサ曲とはちょっと思いつかないユニークな発想だと思います。私はミサ曲にはあまり詳しくないので、今後ちょっと気をつけて聴いてみます。
cherubino
2012年02月21日 22:16
ひでくんママさま、こんばんは。(Zauberfloeteさま、いつも割り込みすみません。)ご感想を読ませていただいて何かひっかかるところがあり考えていましたが、今日『モーツァルトのシンフォニー第2巻』(ザスラウ著・東京書籍)に似たような記述があったのを思い出しました。
「モーツァルトは、二分の四拍子、二分の三拍子、二分の二拍子という拍子をめったに使うことはなく、特定の音楽的文脈---教会音楽の緩徐楽章、特にアッラ・ブレーヴェ様式によるカノンやフーガ---でのみ使用している。これらの拍子は、当該の楽譜が「古様式 stile antico」であることを知らせる役割を果たしており、モーツァルトがフックス流の対位法に通暁していたことの、さらなる証拠となっている。(中略)モーツァルトは四分の四拍子を、きわめて遅いテンポの曲から適度に速いテンポの曲まで、幅広く使用した。しかし二拍子系のきわめて速い楽章では、2/4、あるいは(縦線C)による記譜を採用している。したがって(縦線C)には、二つの異なった意味がある。つまり、古いアッラ・ブレーヴェのテンポという意味と、より当世風の四分の四拍子の縮小版という意味である。」
 ひでくんママさんのコメントを読みながら、このK.543の序奏に「キーリエー、エレーイソーン」と歌詞をつけて歌ってみたら、歌えるんですよね、実は。となるとこの(縦線C)は「古様式」の印であって、元気な二拍子で演奏してはいけないという考えもなりたったりして?
ひでくんママ
2012年02月22日 14:06
cherubino さま

でしょでしょ!! 私はカン(&度胸)だけの発言ですけど。
K.543 終楽章の音型なんかもケッヘル100番台ミサ曲に、その萌芽があるように思います。

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