クラシック名録音106 究極ガイド

ステレオサウンド社から2011年5月に発行された2500円という高価な本(mook)。著者は音楽評論家の嶋護氏。嶋氏と言えば、「ステレオサウンド」誌上でユニークな記事を多く書いていた人。
http://zauberfloete.at.webry.info/200703/article_14.html
安くはないため一度手に取ってから購入したかったが、店頭になかったのでやむを得ず取り寄せてもらうことにした。何となくアナログ時代の演奏中心という予想はしていたが、一見してびっくり、ここまで偏った内容とは思わなかった・・・。
レパートリーはバッハと後期ロマン派から近代のオーケストラが中心で、レーベルはRCA、デッカ、マーキュリー、EMIが大部分を占めている。CDは一枚のみ、あとはすべてアナログ・レコードで、そのすべてのレーベル(レコードの中心部分のラベル)とジャケットの裏表写真が載っており、これだけでも貴重な資料と思う。
これらはすべて嶋氏のコレクションから選ばれたものであり、その意味では万人向けのお薦めディスクが列挙されたカタログ的な書ではなく、所有者の思いが詰まったコレクションの数々を見せていただくという姿勢で読むべき本と思う。
注目すべきは書名の「名録音(名演奏ではない)」。嶋氏の視点は、楽器や会場の存在感がどれだけ再現されているかという点であり、物理的な数字(ダイナミックレンジや周波数帯域の広さ等)のみを重視している訳ではない。そのためか(?)大部分は1970年代までの録音となっている。
いずれにしても嶋氏の文章は、そのディスクを聴いて見たいと思わせるような表現に満ちている。
106枚の中には私が持っているディスク(レコードではなくCD)が何枚かあったので、検証の意味で嶋氏の文章を読んでからあらためて聴き直してみた。

まず、ブリテン=イギリス室内管弦楽団によるモーツァルト:交響曲第25番ト短調(DECCA/1971)。
「ウィルキンソン(録音エンジニア)は、そのホルン・アンサンブルから生まれる分厚い和音だけでなく、低弦から生まれるレゾナンスまでも積極的にとりこみ、暖かそうな衣装として音楽にまとわせた。オーケストラの後方に位置するホルンの響きが明瞭に描かれることで、どちらかといえば小編成のオーケストラが、深い前後差を感じさせる。」
夏の湿気が多い上にエアコンをかけた悪条件のせいか、私の装置では上記のようなオ-ケストラのイメージまでは再現することができなかったが、優れた演奏であることは間違いないということを再認識した。

次に、リフキンが弾くスコット・ジョプリンのピアノ・ラグ(Nonesuch/1970)。
「サウンドステージは三次元的で、その上部方向への解放感から天井の高さがよく分かる。(中略)歯切れのいいタッチと明るめの音色は、ピアノのハンマーと弦の出会いがいかにも幸福なものだったかを訴えかける。打鍵から打ち出された音はサウンドステージで四散し、やがて壁面に当たって跳ね返り霧消する。ラグタイムのステディなビートに乗って、こうした音の小さな生死が海岸に静かにうちよせる波のように確実に、そして無数に繰り返される。」
私の装置では天井の高さまでは分からなかったが、耳を凝らして真剣に聴いていると、嶋氏の言っていることが何となく分かるような気がした。久しぶりに聴いてみて、この演奏(と録音)が凄いものであることを実感する。試しにレヴァインが弾く同じ曲を聴いてみたが、圧倒的にリフキンの方が素晴らしかった。

あらためて言うまでもないことではあるが、どんなに名録音であってもそれが優れた演奏でなければ、そのディスクの価値はない。逆に、優れた演奏であれば録音は不十分でもよいのだろうか? 否、もちろん、優れた演奏こそ優れた録音で聴きたい。私は録音や再生装置は優れていればいるに越したことはないと思っている。
が、嶋氏が書かれているようにその音楽が再現できないのは、私の装置が不十分なためなのか、それとも私の感受性が鈍いせいなのか・・・。

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