智天使ケルビム

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ずいぶん前に買ってはあったのだが金聖響、玉木 正之著「ベートーヴェンの交響曲」 (講談社現代新書/2007)をやっと読んだ。
玉木は前書きとあとがきだけで、実質的には金の著作であり、ベートーヴェンの交響曲を一曲ずつ採り上げて解説している。が、本書はあくまでも「クラシック初心者がベートーヴェンの交響曲を聴くにあたってのガイドブック」であり、そのため金聖響は、「従来ベートーヴェンの交響曲に植えつけられた先入観を排除する」ことに力を注いでいる。
クラシック初心者にとっては本書の内容はかなり新鮮かも知れないが、個人的には、指揮者金聖響としてもう一歩踏み込んだ現場にいる立場としての「解釈」を聞かせて欲しかったとも思う。
一点だけ、第九の歌詞(und der Cherub steht vor Gott!)に出てくる「天使ケルビム」の話は私にとって再考のきっかけとなる興味深い内容だった。
私自身、天使というとどうしてもキューピッドというイメージで考えがちであり、実際深く考えたことはなかったものの、漠然と普通の天使を思い浮かべていた。確かに、このcherub(複数形はcherubim)、英語では、まるまる太った愛らしい幼児、童顔の人などのことで、かのケルビーノもこの言葉に由来している。
いわゆる「天使の階級」によれば、ケルビム(智天使)はセラフィム(熾天使)に次ぎ第二位に位置づけられており、知識・智慧を司るとされている。しかし、旧約聖書における預言者エゼキエルによれば、ケルビムとは「人間と獅子と牡牛と鷲の4つの頭を持ち、4枚の翼を持ち、黄金の眼が記された4個の車輪を持った姿」で現れたという。
とはいえ、ケルビムは、「愛の天使」で有名なキューピッド(美しい子供の姿をした天使)として描かれることもあり、丸山桂介は「プロメテウスのシンフォニー」において、旧約聖書や詩論などを踏まえながら、楽園=歓喜の地=エデン=至聖所ととらえ、それに関連して乙女=翼の主=ケルビムという論を展開しているそうである。
一方、シラーと同時代のゲーテの「マリエンバート悲歌」の一節には、ケルプが「門を守る」役割と読み取れる表現もあり、シラーもそのイメージを共有していたと考えるのが自然であろうと言われている。
このように、古典的な文献に登場するケルプのイメージはほぼ一貫して「強面」であり、ケルプが神の前にいるため、喜びだけでなく畏怖の念を感じて簡単には近づけないという状況を表しているものと思われる。なお、以上の解説は下記の文献を参考にさせていただいた。
http://www.kanzaki.com/music/lvb-sym9-cherub.html
いずれにしても、可愛らしい天使が神の前に立っている訳ではなく、「der Cherub」;男性天使が天国の入り口を守っているらしいことは何となく分かってきた。そう考えるだけでもあの長いフェルマータに至るまでの歌い方も違ってくるのではないだろうか。
(ラファエロ:「エゼキエルの幻視」)

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