スティング:「ラビリンス」~Songs From The Labyrinth~

●もう一年以上前、かのスティングがダウランドの歌曲集を出したことは知っていたのだが、どんな演奏かまったく想像がつかず、ちょっとためらっているうちに時間が経ってしまっていた。今回、このCDを図書館で借りてきて、遅ればせながらやっと聴くことができた。そして、最初の歌を聴き始めた瞬間に、あらためて購入することを決めた。
●ロック・シンガーであるスティングがダウランドを歌うなどということ自体が考えられない企画だと思っていたが、スティング自身の解説を読むと20年以上前から、ダウランドの音楽について興味を持ち、さまざまな音楽家から指導を受けながら少しずつ自分のものにしていったというプロセスがわかり大変興味深い。
●私にとって、ダウランドの音楽との出会いは、90年代前半にPARDONレーベルからリリースされた「悲しみよ、とどまれ」という歌曲集、波多野睦美さんの歌とつのだたかしさんのリュートによる演奏だった。その後、カークビー、ボニーなどの歌も聴いてきたが、ダウランドといえば他の誰の演奏より波多野さんの歌、というイメージが出来上がってしまい、コンサートでも何度か聴き、第二集である「優しい森よ」(サイン入り!)も愛聴してきた。その歌い口というか表現の巧さは見事なものと思う。
●ジョン・ダウランド(John Dowland, 1563~1626)は、イギリスの作曲家、リュート奏者。1588年にオックスフォード大学で音楽楽士となる。宮廷リュート奏者を望んだが、自身がカトリック教徒であったため、イングランド国教会の英国では受け入れられず、ニュルンベルク、ヴェネツィア、フィレンツェなどヨーロッパ諸国を遍歴し、1598~1603年にはデンマークでクリスチャン4世付きのリュート奏者を務める。1606年にイギリスに戻り、1612年に国王付のリュート奏者となる。残された作品は、声楽とリュート音楽に分けられるが、宗教的な作品はほとんど見あたらず、愛や悲しみを歌う通俗作品が特徴的となっている。
●スティングはその解説の中で、「ジョン・ダウランドは1563年に生まれているが、今では珍しくなくなった疎外されたシンガー・ソングライターというものの、おそらく先駆けであったろうし、何か現代的な鋭い共感を覚えるものが彼にはある」と述べている。また、CDオビのコピーには、「現代の吟遊詩人スティングが取り組んだのは彼曰く<17世紀はじめのポップ・ソング>、ジョン・ダウランドの音楽。時空を超え、シンガー・ソングライターのルーツと正面から向き合った意欲作です。その格調高く愁いを含んだメロディは現代の我々の心をも強く揺さぶる普遍の力を持っています。」とある。
●ヴォーカル&アーチリュート(リュート族の撥弦楽器。ヨーロッパのバロック期、通奏低音楽器およびソロ楽器として使用された):スティング/リュート&アーチリュート:エディン・カラマーゾフ/2006年ドイツ・グラモフォンよりリリース/ダウランドの歌曲10曲と、ロバート・ジョンソン(1563~1633)の歌曲1曲、他にリュート独奏曲、ダウランドの書簡のスティングの朗読、などが挟み込まれている。
●スティングの声は美しいとは決して言えないが、自然で、温かみと味わいがあって心に沁みる。それぞれの歌をしっかり自分のものにして共感しながら歌っているのがわかり、ロック歌手とエリザベス朝時代の歌という取り合わせながらその違和感はまったくない。ダウランドの歌は、そのあとの時代に盛んになったオペラなどの「芸術家」のための声ではなく、「自然の」声のために作曲されたものだからと思う。
●私が大好きな曲である、<Come again>でのサラりとして粋な感情表現、<Fine knacks for ladies>でのビーチボーイズを思わせる多重録音によるハーモニーづくり、<Flow my tears>や<In darkness let me dwell>などの奥深さなどは絶品で、素晴らしいとしか言いようがない。

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