モーツァルトのB(変ロ)管ホルンの用法について

この問題(B管/変ロ調ホルンには二種類/長短の管があり、そのどちらで演奏すべきか)について、私としてはモーツァルトのB管は特に指定がない場合にはすべてアルト(高い/短い管)で演奏するのではと考えていたのだが、最近、例外(かどうか)もあるのではと思うようになってきた。
http://zauberfloete.at.webry.info/200804/article_5.html
この問題に関しては、どの参考文献をみてもほとんど言及されておらず、Paul R.Bryanという人の論文と、cherubinoさんのブログが存在するくらいである。
http://gospels.cocolog-nifty.com/classic/2011/01/post-f03a.html
今回考えるにあたり、採り上げたのはモーツァルトが調性の異なるホルンを2本または2組(4本)使った例。そこでの2本(2組)のホルンのスコア上に書かれた順番に注目してみた。
まず、交響曲第18番第一・三・四楽章におけるベーレンライター版のスコアでは、C 管アルト2、次にF管2の順でスコアに書かれている。ただし、この曲の場合、第三楽章の2本のCorni in C altoは、モーツァルトの手稿譜では総譜の一番上に書かれており、また他の楽章においてもあとから総譜に付け加えられているとのことであり、モーツァルトがこの順にスコアに書き入れた訳ではない。
その他思い当たる曲は下記の通り(最初が上段、次が下段)。ただし、この中で「グラン・パルティータ」第一楽章冒頭の自筆譜では上段に「Corni in F」、下段に「Corni in B」と書かれているのだが、それ以外は自筆譜を見ていないのですべてベーレンライター版のスコアによる。なお、「偽の女庭師」や「ツァイーデ」の中にもこのような例があるらしいがそこまでは調べていない。
○交響曲第18番第二楽章:F管2、B管2
○交響曲第19番第一・三・四楽章:Es管アルト2、Es管バッソ2
○交響曲第25番第一・三・四楽章:B管2、G管2
○交響曲第32番:G管2、D管2
○セレナーデ変ロ長調「グラン・パルティータ」第一・二・四・六・七楽章:F管2、B管2
○交響曲第40番第一・四楽章:B管1、G管1
他にもあるかも知れないが、上記のケースを見てわかることは、Es管アルトの場合はもちろん、モーツァルトは管の調性の高い楽器順にスコアに書き入れたのではないかということである。
となると、交響曲第18番の第二楽章および「グラン・パルティータ」におけるB管は、F管より低いB管バッソということになる・・・。
これまで、「特に何も書かれていない場合にはすべてアルト(高い)で演奏するのでは」と私は考えていたのだが、この二曲のケースにおいて、なぜモーツァルトがB管、F管の順でスコアに書き入れなかったかという問題に対して明確な説明ができない以上、私の仮説は撤回せざるを得ない。
なお、交響曲第18番の場合、アルトで演奏しているCDも実際に何枚かはあり、全く違和感のないそれなりに演奏効果のあるものではあるが、「グラン・パルティータ」の場合はアルトで演奏しているものは皆無というのが現状である。

逆に、B管が先に書かれている交響曲第25番(K183)第一楽章の場合、少なくとも第一楽章終わり(212小節から)3小節における1・2番B管ホルンと3・4番G管ホルンによるメロディラインの分担の仕方、さらには第三楽章冒頭や終楽章9小節からの分担の仕方などから、このB管ホルンは絶対にアルトだということが分かる。
また、交響曲第40番の場合も、第一楽章の2本の和声の作り方や第四楽章117や301小節からの2本のホルンによる音型が木管のそれと同様になるためにも、B管ホルンがアルトで意図されたことは確実である。

ということで、交響曲第18番第二楽章や「グラン・パルティータ」以外にも、モーツァルト自身は何も(アルト/バッソ)書き入れていないが、B管バッソで演奏すべき曲や楽章があるのだろうかという問題が残される。この問題に関しては、実際にどのように演奏されているかということももちろん事実としては重要だが、上記Bryanの研究でも一部試みられているような、モーツァルトの管弦楽法(特に木管+ホルンの使い方)や和声の作り方に関する研究が必要となるだろう。今後あらためて考え直してみたい。

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