モーツァルト:交響曲第39番変ホ長調K543~序奏のテンポ その2~

前回の記事(http://zauberfloete.at.webry.info/201202/article_17.html)に対し、佐伯先生始め、ひでくんママさん、cherubinoさんからコメントをいただいた。ありがとうございます。
cherubinoさんからは、ニール・ザスラウ著「モーツァルトのシンフォニー(第Ⅱ巻)」(東京書籍/2003)の中に、以下のような記述があるとのご指摘があった(私も読んだことはあるはずなのだが忘れていた)。
モーツァルトは、二分の四拍子、二分の三拍子、二分の二拍子という拍子をめったに使うことはなく、特定の音楽的文脈――教会音楽の緩徐楽章、特にアッラ・ブレーヴェ様式によるカノンやフーガ――でのみ使用している。これらの拍子は、当該の楽譜が「古様式 stile antico」であることを知らせる役割を果たしており、モーツァルトがフックス流の対位法に通暁していたことの、さらなる証拠となっている。モーツァルトがこれらの拍子を使う使い方は、クヴァンツの図式における各拍子の位置付けに合致しており、教会音楽は劇場音楽や室内音楽より遅いテンポで演奏されたとする、同時代の多くの論文の説明とも合致している。モーツァルトは四分の四拍子を、きわめて遅いテンポの曲から適度に速いテンポの曲まで、幅広く使用した。しかし二拍子系のきわめて速い楽章では、2/4、あるいは「縦線C」による記譜を採用している。したがって「縦線C」には、二つの異なった意味がある。つまり、古いアッラ・ブレーヴェのテンポという意味と、より当世風な四分の四拍子の縮小版という意味である。
ということで、cherubinoさんは、ひでくんママさんのコメントをヒントに、このK.543の序奏に「キーリエー、エレーイソーン」と歌詞をつけて歌えるということから、この(縦線C)は「古様式」の印であって元気な二拍子で演奏するものではないのでは、との仮説をたてておられる。なかなか興味深い仮説だと思う。

その後、私もずっとこの問題について考えていたのだが、スコアを見ていて気がついたこと。
注目したのは、序奏冒頭二小節目のヴァイオリンの32分音符の下降音型。ヴィオラやチェロ/バスにもこの(上昇)音型は出てくるのだが、それらはすべて一拍半:32分音符4つ×3(12個)の単位で構成されている。
そして、アレグロ(四分の三拍子)に入ってから、今度は16分音符4つ×3(12個)による下降音型がヴァイオリンによって奏されるのだが、私はこれらが同じようなテンポで聴こえることをモーツァルトは意図したのではないかとふと思った。
そのためには、
・序奏(二分の二拍子)の二分音符の速さと、アレグロ(四分の三拍子)の付点二分音符の速さを同じにする。
・序奏の四分音符の速さと、アレグロの付点ニ分音符の速さを同じにする(先日私が聴いた演奏)。
のいずれか、というか厳密には両者の間くらいの比率による(?)テンポで演奏することにより、序奏とアレグロの下降音型が同じように聴こえることになる。
ここで、「コジ・ファン・トゥッテ」序曲の<アンダンテ>の序奏を見てみよう。ここで8小節目の3拍目からの6小節と半分のフレーズ(後半は「コジ・ファン・トゥッテ」と歌われる部分)が、続く<プレスト>の228小節からの13小節で再現される。また、「ポストホルン・セレナーデ」K320の第一楽章の<アダージョ・マエストーソ>の序奏の6小節は、続く<アレグロ>の152小節からの12小節で再現されている。
このことは、<アンダンテ>は<プレスト>の半分の速さ、<アダージョ>は<アレグロ>の半分の速さで演奏すれば、序奏と主部に継続性を持たせることができ、さらに主部において序奏がまったくそのまま再現されるということになる。
そして交響曲第39番の序奏は<アダージョ>、四分の三拍子の主部は<アレグロ>。ということは上記の法則(?)に当てはまらないだろうか?

ここで話は逸れるが、これも今日、「13管楽器のためのセレナーデ変ロ長調K361(K370a)」冒頭ページのファクシミリ(家の廊下に額に入れて掛けてある)を見ていて思ったのだが、この序奏は交響曲第39番の序奏に何となく似ている。
13管楽器の序奏は、<ラルゴ>、四分の四拍子なのだが、4分音符・付点8分音符・16分音符・4分音符に続く、クラリネットの32分音符の細かい動きが、視覚的に39番の序奏を想起させる。そして主部は<モルト・アレグロ>・・・。
以上、モーツァルトが意図したであろう序奏と主部の関係は何となくわかってきたが、ではなぜ39番の序奏はニ分の二拍子で書かれているかということ。これについてはもう少し考えてみたい。

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