「未完成」交響曲

「ステレオサウンド」誌に、オーディオファイルのための管弦楽入門というコーナーがあり、最新号(2007/SPRING)で「未完成」交響曲がとりあげられていた(音楽評論家、嶋護氏が執筆)。
「ステレオサウンド」は、今や現存する最後(「ステレオ」という雑誌もあるが)のオーディオ専門誌。より良い音を、というニーズに対応したハイエンド・オーディオ(1,000万円以上の機器も頻出する)を志向する人たちに向けた雑誌で、私のような貧乏人はいつも夢のような世界ばかりを見せられることになる・・。
さて、今回の「未完成」特集。私にとっては内容的に非常に興味深いものだった。
クリュイタンス=ベルリン・フィル(TESTAMENT/EMI)、カラヤン=ベルリン・フィル(art/EMI)、そしてマッケラス=スコティッシュ室内O(TELARC)の3種類の演奏を、スコア、各演奏時間に沿って詳細に分析して行く。
11ページに及ぶ詳細な分析に刺激されて、私もクリュイタンスとカラヤン盤の聴き比べを行った。ちなみに、私はマッケラスのCDは持っておらず、また、私が持っているのは、クリュイタンスのCDはここでのテスタメント盤ではなくEMI国内盤、そしてカラヤン盤もここでのart盤ではなく、2004年の通常のリマスター輸入盤である。
それにしても、この嶋護氏という人、ただ者ではない。録音年月日、場所、録音プロデューサ等のデータに加え、録音セッションの写真の分析、奏者の推定、スコアを参照しつつ、木管ソリストのフレージング、強弱の指摘、指揮者の解釈などにも言及している。
そもそも、ここに挙げられた各演奏のCDを持っていて、かつ、それを聴きながら筆者の指摘をなぞらないとここでの内容は完全に理解できない。そんなことをわざわざする人が何人いるのだろうかと若干疑問にも思ったりしたが、私自身、その一人だろうと思いつつ聴き始めた。
まず、掲載されていたクリュイタンス盤の録音セッションの写真。これは私も初めて見たのだが、コントラバスが異常に前面に出ており、チェロの2プルト目から後ろに位置している。その結果(かどうか)、コントラバスの音がかなりクリアに収録されることとなる。
以下、第二楽章の分析。木管(クラ、オーボエ)の有名なソロについて。まず、ブレスに関する言及があるが、「譜面ではつながるべき」と言われても、実際に管楽器をやる方ならおわかりになると思うが、ここで(78~79小節および218~219小節あたり)ブレスをしないで吹き通すことは不可能であることは常識となっている。なお、クラの奏者については、クリュイタンス盤はその高音域の柔らかさからシュテール、カラヤン盤はやや固めの音色からライスターであると私は感じた。また、オーボエについては両方ともコッホであることに異論はない。
なお、嶋氏は、この後、カラヤン盤でのクラリネットのソロの16分音符のアーティキュレーションの甘さを指摘し、「完璧主義者としてのカラヤンの見逃し」という表現を使っているが、私に言わせれば、カラヤンはそのような意味で完璧主義者では決してなく、たとえ奏者がミスっていたとしても、音楽の流れを重視してあえて取り直し・編集などしなかった人だということである。実際にそのような例はいくらでも挙げることができる。
さらに、クリュイタンス盤の二度目のトゥッティ(練習番号E)の直前に左奥、金管楽器あたりからざわめきが聞こえるという記述があるのだが、私の装置(ディスク)では残念ながら聞き取ることができなかった。また、130小節あたりのファゴットとホルンのユニゾンについて、「マンフレート・ブラウンだろうか、ヴィブラートをつけたファゴットが美しい」、という記述もある。同じように私にはここまで判別することはできなかった。しかし、他の箇所でのファゴットの音色から、ここでの奏者はブラウンであろうことはおそらく間違いないと思う。
かなりマニアックな記述に深入りしてしまったが、いずれにしても、同じベルリン・フィルの演奏とはいえここまで違いがあるとは、実際に聴き比べてみるまで想像もつかなかった。嶋氏も書いているように、この二つの演奏の間にあるのは、もちろん、表現の違いであって、優劣の差であることは言うまでもない。

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