ハイドン:「天地創造」

来週の演奏会でこの曲を演奏する。
1798年に作曲されたこの曲は、ハイドンの最高傑作の一つと言われている。全体は3部に分かれ、旧約聖書の創世記の最初の部分に書かれた6日間にわたる、神による天地創造の過程とアダムとイヴの物語が描かれている。
概要はWikipediaにある程度書かれているが、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E5%9C%B0%E5%89%B5%E9%80%A0_(%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%B3)
もう少し細かい内容は下記↓がわかりやすい。
http://www.oekfan.com/note/haydn/creation.htm
初めての人にとっては大作でなかなか馴染みにくいが、YouTubeで大野和士が、入門用に簡単な、しかしわかりやすい解説をしている。
https://www.youtube.com/watch?v=C76DZsQs_OU&t=14s
https://www.youtube.com/watch?v=U-QNyYVrnlA

まず登場人物(?)/声楽ソリストは3人の天使、ガブリエル、ウリエル、ラファエル。
キリスト教においては、ミカエル、ガブリエル、ラファエルの三大天使にウリエルを加え四大天使と言われる。
基本的に天使には性別はないと言われるが、一般的には男性的外見として表現される。
ただし、ガブリエルだけは「受胎告知」に描かれているように女性として描かれることが多いようだ。
ということで、「天地創造」においても、ガブリエルはソプラノ、ウリエルはテノール、ラファエルはバスが担当する。そして、イヴとアダム。
話は逸れるが、第九交響曲に登場するケルビムも男性天使が天国の入り口を守っているという解釈が妥当なのだろう。
https://zauberfloete.at.webry.info/200803/article_15.html

次に楽器編成は下記の通り。
フルート3、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部、声楽ソリスト、混声四部合唱
ということで、標準的な2管編成に加え、第3フルートが必要。ただし、第3フルートは第29(28)曲だけにしか使われておらず、二管編成のオケではこの1曲だけのためにエキストラを呼ばなければならないことになる。しかし、第3フルートの出番の間オーボエはずっと休みなので、ハイドンの時代はオーボエ奏者が持ち替えたのだろう(そのための休みは1小節しかないが)。
そして、ミサ曲において使われてきたトロンボーン。
さらに、コントラファゴット。ハイドンが初めてコントラファゴットを使った曲がこの曲かどうかわからないが、後年の「四季」でもこの楽器が使われている。
この「天地創造」において特徴的なのは、第6、22(21)曲のラファエルのアリア、第30(29)曲イヴとアダムのデュエット等以外のコントラファゴットが使われている曲では第3(バス)トロンボーンと全く同様の譜面となっていること。
先日観たルツェルン音楽祭/ラトル=ベルリン・フィルによる「天地創造」の楽員配置において、木管後列が向かって左から、バストロンボーン、コントラファゴット、クラリネット2番、1番、ファゴット1番、2番という変則的な形になっていたのは、同じ譜面を演奏するバストロとコントラファゴットを近くにしたいという事情によると思われる。
https://zauberfloete.at.webry.info/201803/article_2.html

そして、私が持っているスコアはドーヴァー版(ペータース版のリプリント)なのだが、今回使用する版(指揮者のスコアとパート譜)はカールス版。
https://www.carus-verlag.com/en/choir/sacred-choral-music/joseph-haydn-the-creation.html
https://www.carusmedia.com/images-intern/medien/50/5199000/5199000x.pdf

曲の定義の仕方(?)が異なるため、後半になると曲番号が慣用版とズレていたりする(上記カッコ内がカールス版)。まあそれはよいとしても、原典版ということで、かなりの箇所でアーティキュレーション(スラー)が書かれていない。特に(ベーレンライター版もそうだが)装飾音符と主音の間のスラーが書かれていないということが問題になる。

レオポルト・モーツァルトの「バイオリン奏法」にも、
さてここに、例外なしの規則を示しましょう。前打音はその本音から決して離してはなりません。また必ず同じストロークで弾きます。前の音ではなく後ろの音が前打音についているということは、Vorschlag(前に打つ)という言葉からもわかります。
と書かれている通り、装飾音符には原則としてスラーを付けるというのが暗黙の了解であり、スラーが書かれていなくてもスラーを付けて演奏すべきであることは常識。
https://zauberfloete.at.webry.info/201606/article_3.html
であるにもかかわらず、スラーを付けずに演奏する人が少なくなく、他にも、楽譜に書かれていない慣習を知らない人が多すぎる。
また装飾音符以外でも、当該箇所にスラーが付いていない場合、他のパートやそれまでに出てきたフレーズにスラーが付いていれば、当然スラーを付けるべきであり、作曲家が付け忘れたか暗黙の了解として敢えて省略したかのいずれかと考えるべきである。
そうした点が私自身、原典版を使うことに対して積極的になれない理由でもある。

話が本論から逸れてしまった(次回に続く)。

この記事へのコメント

右近
2019年03月08日 19:09
お疲れ様です。

下記は、随分前にN響のM氏とミクシで話し合った事があります。

また装飾音符以外でも、当該箇所にスラーが付いていない場合、他のパートやそれまでに出てきたフレーズにスラーが付いていれば、当然スラーを付けるべきであり、作曲家が付け忘れたか暗黙の了解として敢えて省略したかのいずれかと考えるべきである。

M氏は上記と同じ事を仰いました。
私はそこで質問しました。

Q1.これについて言及している歴史的資料はありますか?
Q2.ボーイングを統一しない時代で、かつ、ソリストは同じフレーズを繰り返し同じように演奏するのはナンセンスと言われた時代という状況を鑑みて、上記が普通だと思いますか?

M氏は、それが演奏家の習慣だ、とかなんとか言って去ってしまいました。Q3その習慣が始まったのはいつですか?と聞きたかったんですが。

因みにQ1の答えは恐らく、そんなものはありません。ですし、
Q2の答えは言わずもがなです。Q3に至っては恐らく19世紀後半から20世紀です。

原典版のスコアが色々省略していることは間違いないことですが、だから、全部最初にあわせるというのは、大変危険な考えです。
19世紀や20世紀初頭に出版されたふるい楽譜は、176小節のアーティキュレーションを、アーティキュレーションが書いていない同じフレーズである5小節目に足しました、みたいなのが沢山あります。
これは間違いです。
最初は、自由にアーティキュレーションを決めてもらっていいですよ、と言う意味か、最初はシンプルにやります、後で別のやり方を示しますよ、と言う意味なんです。
全体的な考え方をぐるっと反転して考えてみると、スコアが違って見えてきますよ。

右近
2019年03月08日 19:12
歴史的な教則本を読むときに留意しなければならないことを下記します。

1. 対象は誰か。
原則、教則本は初心者を対象にしています。現場のプロ達は教科書通りの演奏をしないので、例外はあるということです。

2. 文脈。
a.言葉遣い
例えば言及されているレオポルトの教則本での装飾音符の扱いですが、「絶対に 例外無しで」と書いていますね。当時、このような書き方はどのような意味を持っていたのでしょうか?ご存知のように、レオポルトの息子のスカトロジーは、彼特有のものではなく、当時流行っていたものでした。果たして「絶対に例外無しで」は、本当に読んで字のごとしなのでしょうか、それとも慣用表現の1つでしかなかったかもそれません。

b. 教則本が書かれた時の状況
誰に向けて書かれたのか、どういう状況であったのかは中々難しい問題です。例えば、レオポルトがこの本を誰に向けて書いたかも考慮する必要があります。彼は基本的にザルツブルクでしか演奏活動はしなかった。しかし息子の売り込みもあったから、ヨーロッパ中を旅行した。したがって色々な情報を普通の人より多く持っていた。仮にイタリアでもフランスでも行われていた奏法が、オーストリア圏ではそうなってないからけしからんと思ったかもしれない。だとしたら、「絶対に例外無しで」は、もしかしたら読んで字のごとしかもしれませんが、それはつまり、オーストリア圏の作曲家の曲が、そのように演奏されてなかったから、そのような言い方になったという事かもしれません。それは、すなわち、多くのオーストリア圏作曲家達は必ずしも、装飾音符をストロークで弾くことを期待していなかったということかもしれません。

以上です。(続く)
右近
2019年03月08日 19:12
教則本は基本的にその著者の音楽に当てはめることは可能ですが、そうでない曲に、時代が同じだからと言って自動的に当てはめるのは危険です。さすがに息子の曲ならと思うかもしれませんが、あの親子の年齢差は、演奏様式の違いすら伴うかも知れません。誤解して欲しくないので、書きますが、原則、装飾音符はスラー付きでやるべきというのは反対しません。しかし、長年ハイドンをやってきて、それでは逆に不自然すぎておかしい箇所が散見されます。また、装飾音符+♪+♬の時に、ハイドンはしばしばこの4つの音を1ストロークでやるように指示しています。また、この間お話しましたように、逆弓の嵐になってしまうこともあり、それはあまりに不自然すぎます。レオポルトの本は出版が1756年ですね。ところでCPEバッハのキーボード教則本(1753年)はご存知ですよね?ベートーヴェンはあの本で勉強したはずです。ツェルニーを教えるときはCPE本を使いました。ツェルニーはリストを教えるときに使ったんじゃなかったかなと思います。CPE本って、当時はもう随分古いですね。では、ベートーヴェンやツェルニーを演奏するときはCPE本に従うべきでしょうか?また、CPEのベルリンでの同僚クヴァンツも有名なフルート教則本(1752年)がありますね。CPEとクヴァンツは同僚でした。教則本も1年違いです。
クヴァンツのフルート教則本(1752年)
CPEバッハのキーボード教則本(1753年)
レオポルトのヴァイオリン教則本(1756年)

この3つは比較すると興味深いですよ。
特に同僚だったCPEとクヴァンツは、まるで戦ってる???みたいです。

是非見てください。
2019年03月09日 22:33
右近先生
ていねいなコメントありがとうございます。
また、個別/具体的なケースでご相談させていただきたく、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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