「通奏低音弾きの言葉では、」

鈴木秀美著、アルテスパブリッシングから2017年5月に発刊されている。
あとがきによれば、業界では通奏低音奏者のことを「絶滅危惧種」と呼ぶのだそうだ。私もある団体で通奏低音を担当するようになってから3年が経つ。バッハのカンタータをチェロ、コントラバス、オルガンの方々と一緒に演奏するのだが、通奏低音は初心者だったこともあり、これまで指揮者の方の指導、周りの方々の助言などをいただだきながら結構苦労している。
本書の著者は通奏低音奏者の第一人者と言うべき鈴木秀美氏。学生時代から現場での長い経験を積んだ鈴木氏ならではの通奏低音の極意が詰まっている。通奏低音をやる人はもちろん、音楽を愛好する方にとっても一読の価値があると思う。
以下、気になった部分の抜粋。
○通奏低音奏者というものは普通、上声部との経糸(たていと)で繋がっているものであり、通奏低音同士の横糸は、ないわけではないがあまり考えない。上がこう動いたらこちらはこう反応する、音楽全体もしくはフレーズの構造からいってここはこう来るのが当たり前という、極めて微妙かつ全体の構造に深く関わるイディオムを共有しているハズだからである。

○18世紀の音楽、或はその流れを汲む19世紀以降の音楽には、記号で表されない幾つかルールがある。例えば一拍目が王の拍というように、同じ音価の音符でも小節の中の位置によって「身分」が違うこと。不協和音は協和音より強く、緊張から弛緩へと「解決」する動きを中断させてはならないことなどである。実際この二つは、あるときは明らかに、ある時にはそれと分からぬほどに、しかし常に働いており、調性音楽全体の根幹を成しているといってもよい。そしてそれらはあまりにも当たり前のことなので、特に強調したいとき以外は何も記号が与えられていない。

○時計の歯車のようになる8分音符を弾きながらも、実は様々なことを考えている。刻んでいるのが段々遅く、もしくは速くなっていないか、旋律の人は満足しているか、旋律が管楽器や歌手の場合にはどこで息を継ぐか、継ぐのが聞こえるように一緒に空けるか、少し幅を拡げて聞こえないように隠すか、不協和音はどこに来てどこで解決するか、ここの和声はどうなっているか、どこが当たり前でどこが驚きか、音型の特徴はどうなっているか、順次進行(音階)か跳躍か、旋律はどこで先に行きどこで緩みたいか、それに付き合うか知らぬふりをするか・・・などと考えつつ、実際どれくらい8分音符のバスを変化させるのか(後略)

○アーティキュレーションとは句読点のようなもので、簡単にいうと、文の終わりと次の始まりとを区切るということである。例えば、小節の最後の四拍目が文の終わりだとして、次の一拍目との間には、メトロノームにはない微妙な時間が小節線の「上に」存在し得る。いつもではないが、しばしばそれがなければならない。四拍目を長くすると間延びするが、メトロノームどおりイン・テンポで次に入ると急いで聞こえる。

その他、師でもあるアンナー・ビルスマとの間の興味深いやりとりも書かれていたが、ここでは省略する。
http://zauberfloete.at.webry.info/201611/article_11.html

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