「ロマン派の音楽~歴史的背景と演奏習慣~」その1

アントニー・バートン編による、「バロック音楽」、「古典派の音楽」に続く最新刊、角倉一朗訳(音楽之友社/2016.3)。原題は、A Performer's Guide to Music of the Romantic Period/2002年に出版されている。
http://zauberfloete.at.webry.info/201411/article_16.html
http://zauberfloete.at.webry.info/201304/article_2.html
章立ては、歴史的背景、記譜法と解釈、鍵盤楽器、弦楽器、管楽器、歌唱、原典資料とエディション となっており、各章とも有益な示唆が含まれているが特に有用な箇所を以下に抜書きしておく(通常書体のまま転記)。

第2章 記譜法と解釈
●ロマン派後期の作品でも(アクセント、フレージングなどの)記号が比較的少ないものもあるが、だからといって、多くの記号をもつ音楽ほど表情を付けずに演奏すべきだという意味ではない。もっとも潔癖な作曲家の音楽においてさえ、多くの微妙なアクセント付け、特にフレーズ構造と微妙な表情の変化に関係するものは、依然として演奏者の責任であった。
●ロマン派以前の作曲家たちは、音楽の性格にとって不可欠な場合を除いてめったにアーティキュレーションを特定せず、彼らが行った唯一明確な区別はスタッカートとポルタートとレガートであった。ロマン派の音楽でも、スタッカート記号の付いた音符と付かない音符のあいだに何か意図的な違いがあるのかどうか、それは時として不明確である。なぜなら、スタッカート記号はまだしばしば、つなぐべき音と切り離すべき音が混ざったパッセージで、どの音をつなぐべきかを明確にするためにのみ用いられたからである。
●単独のスラーはレガートだけでなく、フレーズのアーティキュレーション(分節)も示すことができた。ある状況の場合、スラーの下にある最後の音符を短縮し、そのあとに休みを入れるべきだという意見があって、これは19世紀を通じて多くの作曲家に支持された。
●アクセントとアーティキュレーションの記号
f,ff :これらは厳格に強弱の記号だと思うだろうが、古典派の作曲家たちはしばしばアクセントを示すためにそれを用い、ロマン派初期でも、たとえばシューマンのように、これをひじょうにしばしばそのような意味で使った作曲家たちがいる。彼らが求めたのは強いアクセントであって、必ずしも鋭いアクセントではなかったようである。
fp :これはときに文字通りのこと、つまりforteからpianoへの突然の、または徐々の減衰を意味するであろう(そのいずれであるかは、前後関係からのみ決定できる)。しかし19世紀中葉になると、これはしばしばsfp(またはfzp)を意味するであろう。そのことは特にメンデルスゾーンの音楽と、1850年頃までのシューマンの音楽に見られるようである。
sf,fzsffzの違いはない。sfを好んだ作曲家もあれば(たとえばメンデルスゾーン、シューマン、リスト、ヴァーグナー、ベルリオーズ、ブラームス)、fzを好んだ人もいる(たとえばシューベルト、ショパン、ドヴォルジャーク)。多くの作曲家は通常この記号を重々しいアクセントとして用いたようだが、pianoの脈絡の中でいっそう穏やかなアクセントとして使った人たちもいる。
rf,rfz :これはアクセントないし急速な(普通は強力な)クレッシェンドを意味することがあった。リストはしばしば後者の意味で用いている(たいていrinf.とかrinforz.と表記した)。ブラームスはこの記号でsfよりも弱いアクセントを求めたのかもしれない。
:これはロマン派の音楽で最も慣用的なアクセント記号である。それは常に、すぐさま消えるアクセントを示すであろう。(中略)また19世紀には、たとえばブラームスのように、アクセントを示すためにときどきディミヌエンドの長い「ヘアピン」記号を使った作曲家もいる。
Λ:このアクセント記号は19世紀中葉まであまり使われなかった。これと>との関係はよくわからないが、その形からすると、これは明瞭なディミヌエンドのない、いっそう長いアクセントを示しているようである。シューマンのように多くの作曲家がしばしばいずれのアクセントも用いた。特に19世紀中葉の著述家のなかには、Λをsfよりも弱いアクセントだとした人たちもいる。ロマン派の後期になると、これはきわめて強いアクセントと見なされたようである。ブルックナーとドヴォルジャークはfortissimoの脈絡で下げ弓(down-bow)の連続と同じ意味で、弦パートで連続する音符にΛを使った。
:水平の短線も単独で、あるいは点と組合されて、やはり19世紀の中頃から広く使われるようになった。これは一般に重い、しかし鋭くない演奏、おそらく>やΛほどアクセントを付けない演奏を示したようである。(中略)しかし著述家のなかには、短線のついた音はその音価いっぱい保持すべきだと主張した人もいる。
スラーのついた一連の音符に短線があれば、それは一般にわずかな重みと最小限の分離を示した。このような演奏スタイルはポルタートと呼ばれた(*弦楽器では弓の方向を変えずに奏される)。
スラーの下の点のときもまったく同じことを意味したが、場合によっては、それが鋭く分離する短いスタッカート、つまりスピッカートを意味することもあった。(中略)
ヴァイオリン奏者にとってのスラーは基本的にボーイング記号だったが、彼らはスラーの下にある点という記譜法を18世紀以来、鋭く切り離す奏法とポルタートのボーイングという両方の意味で使っていた。19世紀になってスラーの下にある短線が採用されたのは、この混同を避けるためでもあった。しかし、ブラームスのように本来ピアニストであった作曲家は、この区別の必要性を感じなかったので、ポルタートをしばしばスラーの下にある点で記したのである。
・|(楔形のアクセントは手稿譜の縦線に相当するものとして出版社が導入したもの):スタッカート記号は本来アーティキュレーションを示したが、それはまたアクセントを暗示することもあった。(中略)しかし、これら形の違うスタッカート記号が演奏者に何を伝えようとしたのか、われわれは常に確信がもてるわけではない。縦線は通常、点よりも強いアクセントといっそう短い持続時間を意味した。だがこれには例外もある。たとえばフランスの習慣ではしばしば、縦線の方が点よりも短く軽いスタッカートを意味したようだが、ドイツでは縦線の方が点よりも強く長いこともあった。

以下、その2に続く。
http://zauberfloete.at.webry.info/201603/article_8.html

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