バロックから初期古典派におけるダイナミクスについて

橋本英二著「バロックから初期古典派までの音楽の奏法」(音楽之友社/2005)における、ダイナミクスに関する章から適宜引用してみる(以下、引用であるが斜体ではなく太字とする)。

バロックから初期古典派までの手稿譜や出版楽譜で、ダイナミクスの指示が欠けているのは、テンポ表示の省略以上にめだつ。これは前章で説明したことと同じで、フォルテやピアノの扱い方も、曲の種類や性格、人間感情の反映などから常識として了解されていたからである。したがって強弱の指定が見られるのは、一般通念から離れた特殊なケースとか急激な変化、つまりこれなしでは誤解されそうな場合がほとんどである。クレッシェンドやディミヌエンドなど細かい指示はもっと少ないが、これらの使用もやはりわかったものとみなしていたので、書いていないからクレッシェンドやディミヌエンドを使う必要がないと判断するのは正しくない

L.モーツァルトの説明によると、ピアノやフォルテは忠実に守り、演奏が一本調子のハーディ=ガーディのような音にならないよう、画家のいう光と影の色合いをだす。♯や♮で半音上がった音符はいつも強くしてそのあとすぐゆるめる。同様に♭や♮で低くした音もフォルテで区別する。またいくつかの短い音符に混じって2分音符が出現したら、これに強いアクセントをつけてすぐに弱くするのも慣例で、これは4分音符の場合も同じである。元気のよい曲では演奏が陽気な気分をもりあげるために最高音にアクセントをつけるが、ゆっくりした曲ではそうしないで、アップのボウイングで切らずに長く伸ばす、とのことである。

C.P.E.バッハの見解は、どれがフォルテあるいはピアノのコンテクストとして適切かを述べるのは不可能だが、と前置きしながら、一般的にいえば、不協和音は感情をかき乱すので強く、協和音は弱く、またすさまじい心理反応を起こすような旋律は強く、期待に反するような和声進行も同様にする。調に属さない音符は協和音でも不協和音でもすべて強調し、調内の音は弱くする。(中略)

クヴァンツも似たような意見で、不協和音は感情を撹乱するので、気分平静な協和音より強調しなければならない。なにごとによらずおだやかすぎると退屈してしまうので、不愉快な和音が心をかき乱せばそれだけよけいに次の協和音が満足感をあたえる。このように、気分のよい音、そうでないものが混じり合ってこそ、音楽は私たちの心に刺激をあたえる、と述べている。


「不協和音/緊張」を強調し、「協和音/弛緩」を弱音でおさめる(収める/納める?)という点については、最近ようやく書物などにもその記述が見られるようになってきたが、一般的な西洋音楽の演奏法としてどこまで浸透しているのだろうか?
また、上記の半音で音が上下した場合について、モーツァルトの楽曲ではsfpがわざわざ付けられていることもある(特に緩徐楽章において)が、いずれにしてもそのような原則は心得ておくべきだろう。

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  • 「究極の読譜術~こころに響く演奏のために~」

    Excerpt: 小畑郁男・佐野仁美著により株式会社ハンナより2016年3月に出版されている。 第1部 音楽の表現とは? の章には下記のような記述がある。以下抜粋。 Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2016-05-20 21:44