ハイドン:交響曲第49番ヘ短調「受難」

1768年の日付を持つ自筆譜が残されているこの曲*1 は、「La passione/ラ・パッシオーネ(受難)」という後世の人によるニックネームを持っているが、作曲に際しこの曲が特に宗教的な意味を持っていた訳ではなく*2、むしろ全楽章を貫くへ短調という調性のイメージから、そのように呼ばれるようになったのではないかと思われる。
C. F. D.シューバルト(1739~1791)の「音楽美学の理念(Ideen zu einer Ästhetik der Tonkunst)」によれば、ヘ短調は、deep melancholy(深い憂鬱)、mournful lamentation(悲痛な哀悼)、sorrowful moaning(悲しみにくれる嘆き)、longing for the grave(死への憧れ)などを象徴する調性ということである。
この曲は全楽章がヘ短調で書かれていることを始め、バロックの教会ソナタの影響とも思われる「緩-急-メヌエット-急」という構成を持ち、各楽章がC-Des-B(ハ-変ニ-変ロ)という音の並びで関連づけられている*3 という特徴を持っている。
第一楽章アダージョ、オペラティックな主テーマはため息のモチーフが採り入れられ、寄せては返すヴァイオリンの音型、下降するバスなどにより 深く敬虔な雰囲気が演出される。
続く嵐のような アレグロ ディ モルト――広い跳躍、シンコペィティドなリズム、ポリフォニックな技法による激しい情動の浮き沈みが展開されていく。
グルーミーなメヌエット、トリオは全曲中唯一の長調の明るい世界。一瞬の光明が差し込む。
フィナーレ、劇的なプレストは簡潔で荒削りな構成ながら、バスの四分音符による連打*4 に乗り、息もつかせぬまま悲しみは疾走する。

*1 シュトルム・ウント・ドランク時代(1766~73年)の主要な作品の作曲年代は下記の通り(一部推定)。なお、参考までに同時代のモーツァルトの作品も付記。
 1768年 第26番ニ短調、第49番ヘ短調、第59番イ長調
 1769年 第48番ハ長調、第65番イ長調、
 1770/71年 第43番変ホ長調、第44番ホ短調
        /モーツァルト:弦楽四重奏曲第1番ト長調K80
 1772年 第45番嬰へ短調、第46番ロ長調、第47番ト長調
      /モーツァルト:ディヴェルティメントK136~138
 1773年 第50番ハ長調/モーツァルト:交響曲第25番ト短調K183
*2 ハイドンが楽譜の最後に「神への感謝をもって終わる(Finis Laus Deo)」と記したことによって、キリスト教の受難週の演奏のために書かれたのではないかという説もある。
*3 第一、三楽章はこの音の並びで開始され、第二楽章1~3小節の1stVn各1個目の二分音符、終楽章第1、3、8小節の1stVn各1個目の二分音符はC-Des-Bの並びになっている。
*4 「八分音符のキザミに乗って」という間違った解説も見受けられるように、このプレスト楽章、二分の二拍子であるのだが、一小節4個の四分音符が連続する実質一拍子であり、楽譜を見ないと一小節8個の八分音符のキザミのように聴こえる。

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