仲道郁代のモーツァルト~フォルテピアノと現代ピアノの聴き比べ~

仲道郁代さんのコンサートを聴いた(7/5第一生命ホール)。曲目は下記の通り。
○モーツァルト:「ああ、お母さん聞いて」による12の変奏曲ハ長調K265
○モーツァルト:ピアノ・ソナタイ長調K331「トルコ行進曲つき」
○モーツァルト:ロンドイ短調K511
○モーツァルト:ピアノ・ソナタイ短調K310
○モーツァルト:ロンドニ長調K485
○モーツァルト:幻想曲ニ短調K397
○モーツァルト:ピアノ・ソナタ変ロ長調K281
今回の演奏会はオール・モーツァルト・プログラムに加え、フォルテピアノ(1790年製「シュタイン」:61鍵、ピッチ430Hz のコピー楽器/仲道さん所有)と、現代のピアノ(「スタインウェイ」:88鍵、442Hz)を弾き分けるという大変興味深い企画。K331、K310はシュタイン、K281はスタインウェイを用いた演奏で、他の曲は二つのピアノを曲の途中で弾き分けるというものだった。
後半では、調律師が両方のピアノの鍵盤部分を取り外し、ハンマーが弦を叩く機構の違いなどの解説もあった。弾いた時の鍵盤の沈む深さも、重さ(タッチ)もシュタインは現代ピアノの半分くらいとのこと。

フォルテピアノはチェンバロより少し大きい外見で、音量は小さいもののチャーミングな音色。そのあとに現代ピアノを聴くと、その音量はあまりにも大きく、マイクで拡大しているかのように聴こえる。そしてその表現/音楽がいやに大柄(?)なこと。
仲道さんは、両方の楽器の違いに合わせてその弾き方/表現を変えており、それがひじょうに説得力があり、納得させられるものだった。一言で表現すれば、音量が小さく反応の良いフォルテピアノでは、テンポの緩急、ダイナミクスを大きく付け、濃い表現でしっかり歌い込むのに対し、現代ピアノでは一歩引いてどちらかと言うと客観的に、やや抑制しつつ自然な流れを重視する、というような演奏。
トルコ行進曲での装飾音符(前打音)も、フォルテピアノで「短く」弾くとひじょうに自然で、その必然性も感じられた(現代ピアノでは4つの十六分音符を均等に弾いていた)。
http://zauberfloete.at.webry.info/201401/article_9.html
ということで、仲道さんの奏でる、柔らかい音色で優しく包み込むかのような、しかし雄弁で、ある意味力強くもあるフォルテピアノの演奏を聴くと、ベートーヴェンの場合はともかく、モーツァルトの音楽にはこの楽器が向いているように思えた(もう少し小さいホールの方がさらに好ましいと思う)。
しかし、もっと大きなホールで演奏する場合には、現代ピアノくらいの音量が出ないとフォルテピアノではもの足りないということになるのだろう。

仲道さん自身、現代ピアノでモーツァルトを演奏することについて下記のように述べている(ピアノソナタ全集のライナーノーツより要約、一部抜粋)。
モーツァルトの演奏スタイルを模索しているうちにたどり着いた二つのポイント。
①楽譜の読み方、今の時代の楽譜の読み方と当時の読み方は果たして同じだったのかということ
②楽器、現代のコンサート用グランドピアノとモーツァルトの時代のフォルテピアノとは構造がまったく異なる点をどう考えたらよいのだろうかということ
→当時の文献をひもとくことにより、音楽の読み方自体がまったく変わってきた。こうした研究をもとにあらためて楽譜に向かったとき、新しくモーツァルトの音楽が立体的に立ち上がってきた。
http://zauberfloete.at.webry.info/201403/article_3.html

ではなぜ、モーツァルトがこのような語法で書いたのか、という問いへの答えは、当時の楽器の特性を考えずして探すことはできない。発音形態も音の伸びも、現代とは異なる当時の楽器たち。チェンバロから始まり、フォルテピアノへ変遷した時代。これらの楽器の移り変わりの感覚を知ることは驚きと悦びを私にもたらしてくれた。(中略)
モーツァルトの時代の生きた言葉を使ってみることで、私なりのモーツァルトのピアノ曲のイメージが見えてきたのである。
ではそれでは、当時の奏法で当時の楽器を使って演奏すればよいのではないか、という考えも湧いてくる。これもモーツァルトへの一つの大きな道である。
しかし、モーツァルトの素晴らしい音楽は時代を越えているのだ。そして今の私たちが、今の生活の中で享受している音楽なのだ。
今回の録音では、モーツァルトの語法と感じられるスタイルを、いかに現代のスタインウェイで紡いでゆくかということに心を砕いた。それを工夫しているうちに、音の色や、フレージングなど、楽器の扱いの新しい可能性が開けたように思う。フォルテピアノの細やかな表情の豊かさから学ぶことは沢山あった。

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