ハイドン:交響曲第103番変ホ長調「太鼓連打」

ハイドンが2回目のロンドン滞在中、1794年から1795年にかけて作曲され、初演は1795年3月2日作曲者自身の指揮により王立劇場にて、オペラ・コンサート・シリーズの演奏会で行われた。その時のオーケストラはおよそ60名の演奏家を擁していたという。アンダンテ楽章は初演でアンコールされ、コンサート・マスターのウィリアム・クラマーの独奏に対して特別な賛辞が与えられたという。

この曲を4月の演奏会で演奏する。使用楽譜はザルツブルクのHaydn-Mozart Presseなのだが、昨年秋、初回の練習の時、冒頭のチェロ・バスと重なるファゴットがソロであることに仰天した。これまでのオイレンブルク版を始めとする旧版ではa2(1番と2番のユニゾン)の指定があったため安心(?)していたのだが、オイレンブルク/全音版のスコアなど最近の版ではこの箇所はソロになっている。チェロ・バスのダイナミクスがピアノになっていることからも、この箇所はファゴット1本で吹いた方が良いとは思うのだが、奏者側からすると1本と2本では大違い。ファゴットのこの音域はピアノで吹くと、ヘタをすると不発になる可能性が少なくない。そのため、二人で吹いていればどちらかが失敗して(音が出なくて)も、もう一人いるので音が途切れることはないが、一人だと失敗すればそれがまともに聴こえてしまうという危険がある・・・。失敗しないためには少し大きめの音で吹くことになるのだが、そうなるとチェロ・バスの音はまったく聴こえなくなり(小さめに吹いていてもほとんど聴こえない)本当に「ソロ」になってしまう。いずれにしてもイヤなソロである。
ついでながら、旧版と新版はかなり異同が大きく、冒頭のファゴット(ちなみに33小節3拍目からはオイレンブルク/全音版ではa2になっている)、第一楽章第二主題(79小節から)のアーティキュレーション(旧版はスタッカート、新版はスラー)、第二楽章136小節からのフルートのアーティキュレーション(スラーのありなし)ほか、実際にCDでもいろいろな演奏がある。
なお、オイレンブルク/全音版スコア(1996/日本版は2006)は、ハリー・ニューストン校訂によるもので、ロンドン大英博物館所蔵の自筆スコア、当時の写譜スコア、2種類の手書きパート譜などを参照しつつ、最新の研究成果も取り入れられているようだ。詳細な校訂ノートも付けられており資料としても優れているのだが、冒頭のファゴット・ソロの指定に関しては特に言及されていない。

さて、ここからは余談だが、久しぶりにカラヤン=ウィーン・フィルによるこの曲(DECCA/1963)を聴いてみた。驚いたことに、冒頭の2~13小節、チェロとコントラバスのみ(ファゴットなし)で演奏しているように聴こえるのだが、録音のせいで聴こえにくいだけなのか、あるいは敢えてファゴットを外したのか・・・。なお34小節アウフタクトからはファゴットも聴こえる。
一応、ベルリン・フィルとの演奏(DG/1980・81)も聴いてみたがこちらはちゃんと冒頭からファゴットが入っていた。さらにこの演奏では終楽章冒頭の二本のホルン、4小節だけアダージョ(?)のテンポで吹かせている(あまり他の演奏では聴いたことがない)。
続けて聴いてみると両者のあまりの違いにあらためて愕然とするが、いずれにしてもWPhとの旧録の方がより自然でしなやか、生気あふれる名演となっていることは間違いない。

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この記事へのコメント

cherubino
2014年02月09日 14:04
ZauberFloete様
今回も貴重な情報提供ありがとうございます。ハイドンの「Solo」「Soli」指定は、初期の交響曲などでは「1人で吹く」という意味でなく、「ハーモニーを埋めるのではなく、独自のメロディーを吹く」という意味(注記)の場合が多いようです。偶然ですが、私も交響曲15番の視聴記で、第2楽章のトリオにつけられたヴィオラとチェロのソロ指定について「新ハイドン全集版」が未出版なので確認できないとしていたのを、最近、やっと新全集を手に入れてみたら、序文にここは後者「メロディーを吹く」という意味であるというような記述があり、それを本日、自分のブログに書こうと思っていたところでした。さて、第103番ですが、こちらは規模も時代も違うので、簡単ではありませんが、曲冒頭の有名なティンパニーのソロ指定は、明らかに後者の意味でしょう(ティンパニーをダブらせるのはカラヤンの得意技でしたが)。ファゴットの場合は、後段に「Tutti」の指定があればそれが解釈のヒントになるのでしょうが、これは編者の手が入っている現代譜では正確なところはわからず、自筆譜や当時のパート譜を確認してみるほかないでしょうね。また、調べがつきましたら報告させていただきますが、かなりの難問かも?
2014年02月10日 22:33
cherubinoさま
コメントありがとうございます。「太鼓連打」の冒頭はソロといってもチェロ・バスと重なっているので、初期のシンフォニーと意味的には同じだと思います(元々ファゴットは1本なので)。とはいえ、当時はチェロは一人か二人だった訳ですが、現代のオケはたくさんのチェロ・バスがいるので、その意味ではファゴットも2本でも良いのかと思ったりもしています。

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  • 春の演奏会終了

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