モーツァルトのオペラにおけるクラリネットの使用について

礒山雅著「モーツァルト=翼を得た時間」(講談社学術文庫/2008.10)を読んでいたら、以前読んだ「モーツァルトあるいは翼を得た時間」(東京書籍/1988)には収録されていなかった新たな章が追加されており、その中にモーツァルトの管楽器の用法について書かれていた。
モーツァルトの交響曲の中でクラリネットが用いられているのは4曲(31番・35番・39番・40番)、ピアノ協奏曲では3曲(22番・23番・24番)であることは、少し詳しい人であれば誰でも知っているが、「フィガロ」の中でクラリネットがどのくらい使われているかについて、すぐ答えられる人はあまりいないだろう。以下本書からの引用。
○「イドメネオ」:全30曲中、クラリネットが使われているのは6曲
○「後宮からの誘拐」:全22曲中、クラリネットが使われているのは11曲
○「フィガロの結婚」:全30曲中、クラリネットが使われているのは9曲
○「ドン・ジョヴァンニ」:全25曲中、クラリネットが使われているのは6曲
○「コジ・ファン・トゥッテ」:全33曲中、クラリネットが使われているのは18曲
○「魔笛」:全21曲中、クラリネットが使われているのは11曲
○「皇帝ティトゥスの慈悲」:全27曲中、クラリネットが使われているのは10曲(ただし、クラリネット、バセットホルンに大きなオブリガート付きアリアあり)
ということで、直観的には「魔笛」が最もクラリネットの使用曲が多いのでは、と思ったのだが、「コジ」において最も多用されているという結果であった。

話は逸れるが、「後宮」や「コジ」の序曲にはC管クラリネットが使われていることは有名だが、「コジ」の中でH管クラリネットが使われていることはほとんど知られていないのではと思う。
http://zauberfloete.at.webry.info/201011/article_3.html
実は私自身、Es管、A管・B管以外のクラリネット(アルト、バス等は除く)の実物は見たことも聴いたこともない。ましてH管クラリネットという楽器があったこと自体、現代においては忘れ去られているようだ・・・。
それではC管クラリネットとは一体何なのか。C管、A管、B管の各楽器を吹き比べたサイトもあるのだが、
http://blog.livedoor.jp/hslit123/archives/51342356.html
恥ずかしながら、聴いてみてそれほど有意な差は感じられなかった。一般的に、C管はB管よりも明るく軽い(一方で、音が硬く鋭い)と言われている。
佐伯茂樹氏によれば、シューベルトからマーラー、リヒャルト・シュトラウスに至る多くの作曲家は、調性に関係なくC管クラリネットを指定しており、これらの作曲家のオペラの中では、C管クラリネットは田舎の楽隊などを表現する場面に使用されているという。そして、ベートーヴェンとブラームスの交響曲の中でC管クラリネットが使われているのは(ベートーヴェン:第1を除き)、ベートーヴェン第5の第四楽章、第9の第二楽章、ブラームス第4の第三楽章などで、これらの楽章に共通するのは、ハイドン:「軍隊」、モーツァルト:「後宮」と同様、トライアングル、シンバル、バス・ドラム、ピッコロ、トロンボーン、コントラファゴットなど軍楽隊楽器と共に使用されていることである、と指摘されている。

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この記事へのコメント

ひでくんママ
2012年03月22日 20:47
学術文庫のそれは読んでいませんが、内容からこれが初出だろうと思う雑誌を購入していました。
いま手許にあります。
岩波の「思想」という月刊誌、2006年12月号です。そのときはポール・ド・マンというジャーナリストの「ドイツ占領下時代の新聞記事」に興味をもち、お財布にも余裕があったから(笑)なんとなく買ったことを憶えています。
それにモーツァルト特集として、
 木村 敏「思想の言葉」
 磯山 雅「モーツァルトの美意識を探る(管楽器の用法から)」
 野平一郎「モーツァルトの音楽、その演奏」
 宮澤淳一「グレン・グールドのモーツァルト解釈」
以上、四篇が掲載されています。
磯山さんの論考は、私には、ピアノ協奏曲におけるクラリネット使用率の少なさが驚きでした。なんといってもオーボエとクラリネットの併用が K.491 ただ一曲だけという記述には、びっくりしました。聴いていると豊かな響き(音空間)なのに楽器は少ない。天才としか言いようがないですね。
2012年03月23日 00:21
ひでくんママさま
コメントありがとうございます。
「学術文庫へのあとがき」に、「思想」2006年12月号のために書き下ろした新しい論文を第12章に収めたと書いてありました。さすがです・・・。
モーツァルトは、当時不完全だった管楽器しか知らなかったにもかかわらず、将来の改良を見越したかのようなその見事な用法にはいつも感心させられます。やはり天才的としか言いようがないと思います。
マイスターフォ-ク
2012年06月11日 04:40
初めてコメント投稿いたしますがマイスターフォ-クともうします。

管理人さんのお話素晴らしいですね。


C管クラですが何故かショパンのピアノコンチェルト1番にも指定がありますが、特有のやや開いた管の共鳴がリ-ドやマウスピースとのマッチングが難しく持ってますが、本番ではちょっと?の感じですね。
2012年06月12日 13:03
マイスターフォークさま
コメントありがとうございます。ショパンのコンチェルトまでは知りませんでした。楽器固有の事情というのはその楽器をやる人でないとなかなかわからないものです・・・。

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