モーツァルト:フルート協奏曲第1番ト長調K313(K285c)

1778年初頭頃、マンハイムで作曲されたと考えられているこの曲は、モーツァルトが残したフルートのための唯一の協奏曲と言われている。もう一曲の二長調K314(K285d)は、最近の研究ではそもそもモーツァルト自身の編曲なのか、またオーボエ協奏曲とどちらが先に成立したのかという新たなる疑問、さらには他人の手によるものではないかという見方もあるらしい・・。
この協奏曲を聴く限り、モーツァルトの有名な手紙の、「ぼくはがまんできない楽器のために書かなくてはならないときは、いつもたちまち気が乗らなくなります」という一節は必ずしも信じがたい。モーツァルトは他の協奏曲と同じように、その楽器の当時の技術的可能性を逸脱しない範囲で、かつ奇跡的な音楽を創り出している。
さて、この曲の第一楽章にはアレグロ・マエストーソの指定があるが、私がこれまで聴いたほとんどの録音は、単なるアレグロ、場合によってはアレグロ・アぺルトまたはアレグロ・コン・ブリオで演奏している。二人の指揮者の演奏を除いて・・。
第二番の聴き比べを行ったときには、この二人の指揮者は登場していない。最近では、フルート協奏曲のディスクを制作する場合、第1・2番をカップリングすることが普通であるが、特定のフルート奏者をソリストに置いたディスク制作ではなかったという経緯もあるのだろう。
http://zauberfloete.at.webry.info/200702/article_14.html

一人目の指揮者はカラヤン。オケはベルリン・フィル、ソリストは入団したてのアンドレアス・ブラウ。EMIによる1971年8月、サンモリッツでの録音。この演奏に関しては吉田秀和氏による有名な評論もある通り、特にオーケストラのトゥッティによる開始が実に格調高くゆったりとした見事な演奏となっている。個人的には、ソリストのブラウがテクニック的には素晴らしいものの音色や音楽づくりがかなり地味であり、オケと一体になり過ぎているという感じはあった。とはいえ、この演奏は私にとってこの曲の一、二を争う名演と思っている。
もう一人の指揮者はギュンター・ヴァント。
もう10年くらい前に、秋葉原の某店で入手した海賊盤。演奏はグラフェナウアーがソロを吹き、オケはヴァント指揮のバイエルン放送響と書かれていた。とにかく、第一楽章開始のテンポというかコンセプトはカラヤンとほとんど同じベクトル。さらにグラフェナウアーのソロは適度に華やかでテクニック的にも完璧、さらに歌い方、音楽性も申し分ない素晴らしさ。録音も海賊盤とは思えない高水準で、私にとってカラヤン&ブラウ盤に匹敵する(もしかしたらそれ以上の)演奏となった。その後もこの演奏を上回るディスクは現れていない。同じくヴァント指揮、北ドイツ放送響のリッターがソロを吹くディスクも聴いたが、グラフェナウアー盤には及ばなかった。
http://zauberfloete.at.webry.info/200603/article_13.html
そして今回、突然にドイツBR KLASSIKより、この海賊盤と同じ演奏が公式にリリースされた。カデンツァを聴くまでもなく、第一楽章開始の数秒を聴いただけで、両者が同一の演奏であることを確信した。データによれば1981年10月16日、ミュンヘン ヘラクレスザールでの録音。ただし録音のニュアンスはやや異なり、今回のディスクは響きがブレンドされて全体がまろやかなものになっているのに対し、海賊盤の方が切れが良く広い空間を感じさせるものになっている(個人的にはこちらの方を好む)。が、いずれにしても、この曲のある意味での決定盤が公式に発売されたことは大変好ましい。この曲を好む方にとっては必聴のディスクであると断言できる。
イレーナ・グラフェナウアーは、ユーゴスラヴィアのリブリャーナ生まれ。8歳から音楽を始め1974年にリブリャーナの音楽アカデミーを卒業後、カールハインツ・ツェラー、オーレル・ニコレに師事、ベルグラーデ(1974)、ジュネーヴ(1978)、ミュンヘン(1979)の各コンクールで第一位、1977年から1987年までバイエルン放送響首席を務め、その後ザルツブルク・モーツァルテウムの教授(才色兼備とはこの人のことを言うのではないかと思わせるほどの美人)。
その後、1988年にグラフェナウアーはこの曲をマリナー=アカデミー室内OとPHILIPSに再録音しているが、彼女の演奏はともかく、伴奏オケや全体の音楽づくりは今回の1981年録音の方がはるかに優れている。

なお、今回のこのディスク、下記の演奏も一緒に収録されている。
○モーツァルト:オーボエ協奏曲ハ長調K314 フランソワ・ルルー/コリン・ディヴィス=バイエルン放送響(2001.1)
○モーツァルト:交響曲第32番ト長調K318 コリン・ディヴィス=バイエルン放送響(1985.6)→Novalisへの録音(1988.1)とかなり似た音楽づくり、録音となっている。名演。

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  • モーツァルトの名盤

    Excerpt: 久しぶりにモーツァルトをまとめて聴いた。ホグウッド=アンシェント室内Oのハイドン交響曲集もまだ全部聴き終わっておらず、 http://zauberfloete.at.webry.info/20121.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2012-12-22 23:25
  • グラフェナウアーのモーツァルト K313

    Excerpt: 自主的に音楽を聴きたい時に取り出す機会が多いのはこの演奏。とはいっても、グラフェナウアーが吹くモーツァルトのト長調のコンチェルトは2種類ある。 Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2019-06-08 20:31