モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調K488~聴き比べ その9 クリフォード・カーゾン3種~

サー・クリフォード・カーゾンは1907年ロンドンで生まれ、1982年に没している。この人、私も知らなかったのだが、「ペルシャの市場にて」などで知られているケテルビーの甥にあたるという。モーツァルトの録音も少なくないことで知られているが、この23番イ長調には下記の録音がある。
・1945年/ニール=ナショナルSO(DECCA)
・1953年/クリップス=ロンドンSO(DECCA)
・1964年/セル=ウィーン・フィル(DECCA)
・1967年/ケルテス=ロンドンSO(DECCA)
・1975年/クーベリック=バイエルン放送響(audite)
他にも、ブリテン=イギリス室内管弦楽団(1970)による演奏もあるらしいが、私は見たことがない。
●カーゾン/セル=ウィーン・フィル(DECCA/1964.12) <11'03"/7'18"/7'47">
このセル=ウィーン・フィル盤は、カルショウとパリーの「指輪」コンビによるウィーン・ゾフィエンザールでの録音。1964年12月、「神々のたそがれ」直後の録音であり、音の傾向も似ている。コントラバスのAの音がズンと響く感じが心地よい。
曲の開始早々、フルートの美しい音色に聴きほれるが、13、14小節のフォルテの弦のトゥッティの即物的(?)な響きにまず驚かされる。それは別としてウィンナ・ホルン始め、往年のウィーン・フィルの木管の音色は素晴らしい。全曲を通じて、カーゾンの粒立ちの揃ったピアノの音色が美しい。自然に流れていくというよりは、句読点をしっかりつけた楷書的な演奏と聴いた。
第一楽章、52小節の木管のフレーズは3回目をわずかにディミヌエンドする、120小節は徐々にディミヌエンドするやり方。
第二楽章は一歩一歩踏みしめていく感じの歌い方、孤独感の漂うモノトーンの響き、禁欲的で凛とした印象。ここでもフルートの響きは美しい。トリップだろうか。
終楽章はE,Aから次のオクターヴ上のAに移る時一瞬の間をあける独特の弾き方。ピアノ、オケとも概して男性的な音楽づくり。が、225~227小節のクラ、ファゴットのフレーズはかなり粘って演奏しておりちょっとセルらしくない。265小節の装飾音符は前打音的な処理、291小節のCisから下降してくるピアノは6音均等ではなく奇数番目の音を装飾音的に短くしており、これはこれで大変納得できる。そして、311小節のフルートの低音域からのAへ向かってのスケール、ここはどうしても埋もれてしまいがちになる箇所。明らかにフェーダーの操作によりこの部分を際立たせており、この瞬間だけ巨大なフルートが出現する。
●カーゾン/クーベリック=バイエルン放送響(audite/1975.6.21ライブ) <11'07"/6'47"/8'15">
指揮者が異なるせいか、セルとの演奏より音楽が全体的にゆったりとしており、おおらかな感じがする。カーゾンのピアノはここでもきっちりとした表現で、やや乾いた粒の揃った響きが美しい。オケも美しく、特にフルートは素晴らしい。終始存在感のあるクラリネットはブルンナーかも知れない。
第一楽章52小節の木管楽器は3回ともほぼ同じダイナミクス。カデンツァはモーツァルト作だが、ここではやや草書的に演奏されている。
第二楽章はゆっくりめのテンポで始まるがフレーズの中でかなり緩急をつけている。
特に楽章の終わり、早めのリタルダンドに加え、巧みなディミヌエンドによる絶妙なエンディングが印象的。
終楽章、カーゾンはかなり落ち着いて弾き始めるがオケの方がやや先に行きたがる感じ・・。繊細で躍動感のある生き生きとした音楽の中に「静けさ」が共存する不思議な演奏。176小節から始まるピアノの上行音型はフレーズの中に独特の「間」を入れる独特の弾き方。265小節の装飾音符は八分音符と四分音符の中間的な奏し方(個人的にはこの奏法を最も好む)。
●カーゾン/クーベリック=バイエルン放送響(LIVE CLASSIC BEST100/1980ライブ)<11'23"/6'53"/8'29">
上記ライブから5年後、おそらくカーゾン最後の録音。とはいえ、これは海賊盤。もう10年以上前に確か東急自由が丘駅構内(?)で購入したものと記憶する。2枚組で1000円と廉価だったが録音もなかなか良く、また、このシリーズにはカラヤンの協奏交響曲など名盤が多かった。もっと買っておくべきだったと思う。
ややピアノが近接した感じの録音ではあるが、基本的な解釈は1975年録音盤と同様で、さらに音楽全体がゆったりしている印象を受ける。ディテールは微妙に異なるとはいえ、最も違うのは録音の感じ。決して優れたものとは言えないが一応水準はクリアしている。終楽章の冒頭、フレーズの途中からややテンポを速めるやり方、176小節からの上行音型の弾き方などは(当たり前だが)まったく変わっていない。

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  • K488聴き比べ

    Excerpt: 一昨年にモーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調K488の聴き比べを何回かに分けて行っていたが、それを読んだ方からコメントをいただいた(KAYOさま ありがとうございました)。以下、引用させていただき.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2011-02-16 23:53