「フィガロの結婚」序曲

1786年4月29日(初演の2日前!)の日付を持つこの曲は、モーツァルトのオペラの序曲の中でも、劇中の主題や動機を用いることなく、かつ短い曲ながらオペラ全体の雰囲気を十全に伝える名曲として知られている。
ロココの大広間、絢爛豪華な装飾、シャンデリアの輝き、人々のざわめき、ワイングラスが触れ合う音などが伝わってくるかのような気分が感じられる曲だと思う。
来月の演奏会でこの曲を演奏する。
私にとっては3回目となるが、何回演奏してもファゴット奏者にとってイヤな曲であることに変わりはない。オーケストラ・スタディにおいては必修の曲だと思うが、まず冒頭の弦楽器とユニゾンのppのパッセージ。問題はスラーがついていることで、すべての音符を均等にかつスムーズに演奏することは大変難しい。再現部以降、160小節あたりからはさらに難易度が上がる。また、101、214小節からのチェロ/バスと一緒の半音階的な動きのソロ。これも不思議なパッセージだが、これも注意しないと乗り遅れたり調子ハズれになる危険性を秘めている。
そして、最近大変驚いたこと。
岡田暁生著「恋愛哲学者モーツァルト」(新潮選書/2008.3)という本を読んでいたら、「フィガロ」の章で、序曲のモーツァルトの手稿の写真とともに、「モーツァルトが最初この序曲にゆったりしたテンポの短調の中間部(シチリアーノ)を置こうと考えていて、結局それを削除した」、という記述があった。
写真があまりにも小さいので、拡大コピーをとってみたところ、再現部(139小節)の直前、管はA属7のコードの伸ばし、ヴァイオリンはシンコペーション、低弦・FgがスラーでA H Cis D E Fis G Fis/G Fis E Fis E D Cis H/A (ここまでは現在の姿)、その直後に数小節が書かれており、全体が線で消されている。判読した結果、Aに続いて、(休符)十六分音符/二分音符、(休符)十六分音符/全音符(フェルマータ)//八分の六拍子、ニ短調、オーボエがメロディを歌う第一小節目のところで写真は終わっている。
最初から最後まで一気に駆け抜けるこの序曲の途中で一回ブレーキをかけ、しみじみとした(?)シチリアーノの中間部を置くという発想は現在の姿からは到底想像できないが、もし、この通り実現されたらこの曲の印象もかなり異なったものになったとは思う。
が、結果的にその案が採択されなかったのは、開始早々、一旦立ち止まって振り返ることが「フィガロ」の精神にあまりそぐわないということを、モーツァルト自身が感じたからなのだろう。
改訂された、再現部につながる4小節:1st&2ndVnが三度の音型で輝きながら舞い降りてくるパッセージは本当に美しい。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた

この記事へのコメント

cherubino
2009年06月18日 23:00
こんばんは。おせっかいだったら、ごめんなさい。お話にあった「フィガロ」序曲の削除部分のきれいなファクシミリ画像が、新モーツァルト全集の「フィガロ」の巻・序文(23ページ)に掲載されています。ということは、NMAオンライン
http://www.mozarteum.at/03_Wissenschaft/03_Wissenschaft_NMAOnline.asp)で誰でも見れます。この曲が珍しく「Sinfonia」というタイトルを持ち、そのことがこのシチリアーノをはさむ構想と関係があったのではと以前から考えておりました。Zauberfloeteさんが同じことに興味を持たれたので、少しうれしくなって書きました。蛇足ごめんなさい。
2009年06月22日 21:36
cherubinoさま
コメントありがとうございました。今、NMAで確認しました。実際にこのシチリアーノがはさみ込まれたらフィガロのイメージもだいぶ異なったものとなったことでしょう。作曲家の創作過程を知るということはやはり面白いことだと思います。

この記事へのトラックバック

  • ヘンゲルブロック/=NDRエルプ・フィル/ブラームス4番

    Excerpt: ハンブルクに新しくできたエルプ・フィルハーモニーで昨年11月に録音されたヘンゲルブロック=北ドイツ放送エルプ・フィルハーモニー管弦楽団によるブラームス3・4番のCD(SONY)を図書館で借りてきた。 .. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2017-09-20 21:15