伯爵夫人のカヴァティーナ

「フィガロ」の序曲の演奏時間を調べていた時に、グスタフ・クーンが指揮したディスクの伯爵夫人をバルバラ・フリットーリが歌っていることに気付いたため(買った時はまだ彼女のことを知らなかった)、とりあえず、第二幕冒頭で歌われる第10番のアリアを聴いてみた。
http://zauberfloete.at.webry.info/200906/article_10.html
1993年の録音(ライブ)で、オケの音は貧弱、会場の雑音も多いがまぎれもなくフリットーリの声。艶やかでやや翳りのある美しい歌唱・・。
その次に取り出したのが、同じくフリットーリが歌う同じアリア。マッケラス=スコットランド室内Oによる演奏(2000.9/ERATO)。録音が素晴らしいせいもあるが、フリットーリの声はさらに艶やかさを増し、なめらかで伸びがありひじょうに美しく感動的な歌唱となっている。
さらに、ここでの特徴は(おそらくマッケラスの指示によると思われるが)、アポジャトゥーラ(appoggiatura)の処理。アポジャトゥーラは歌唱掛留音または歌唱アクセントとも呼ばれ、前打音の中で特別な約束事を持っているもの。

前奏に続き、アリアの第一節が終わり、2本のクラリネットが間奏を吹いた後、
O mi rendi il mio tesoro,の最後(第30小節)、tesoro、so-roに対応する音は楽譜上、B-Bになっているが、フリットーリはここでC-B、と、そしてCを強調するように歌っている。あと、第48小節、lascia almen morir.のalmenにもG-Bの移行時にG-GAs-B、と素晴らしい装飾を入れて歌っている。
後者の例はともかく、前者のケースは、「一つのフレーズの終わりに二つの同じ高さの音が並んだとき、この第一の音を書かれているより一音高く歌う」というアポジャトゥーラの原則にまさしく一致する。

楽譜に「書かれた通りに」演奏する(歌う)ことにこだわる人は、まさにモーツァルトが「書いた通りに」演奏することになる訳だが、そうして(楽譜通りに演奏しては)はならない約束事がある場合(作曲家がその約束事を知っていてあえて使った場合)には、楽譜通りに演奏することが作曲家の意図とは反することになる。
このフリットーリが歌うモーツァルト・アリア集のディスクでは、全曲を通じアポジャトゥ-ラを徹底的に再現しようという試みが行われていてひじょうに興味深い。

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