モーツァルト:5つのコントルダンスK609

モーツァルト自身のカタログに記入されずに終わってしまったこの曲は、この第5曲のホルン等を含む拡大された別編曲版(K610/「いじわるな娘たち」というタイトルを持つ)が1791年3月6日の日付を持っていため、同時期の作と考えられてきた。が、最近のアラン・タイソンによる楽譜用紙の研究によれば1787~88年頃の作とされている。
第1曲に有名なフィガロのアリア「もう飛ぶまいぞ」を使っているところから、プラハで「フィガロ」が流行っていた1786~87年頃の作品というのも大いにうなずけるし、第4曲ではトリオの代わりにアルテルナティーヴォを使っていることからも、K509のドイツ舞曲と同じ頃(1787年)の作品であるというのも説得力がある。
編成はフルート、小太鼓、ヴァイオリン2部、バッソという簡素なもの。5曲はそれぞれ、ハ長調、変ホ長調、ニ長調、ハ長調(アルテルナティーヴォはハ長調、ヘ長調、イ短調)、ト長調という調性。
単純化された中にすべての世界がある、とも言うべき、極度に凝縮されたスコアに無限の拡がりが感じられる不滅の名曲と思う。
さて、ディスクはあまり多くはなく、私が持っているCDは下記の通りだが、おそらくこれ以外には数枚しかないのではないか。レコード時代にはワールトの演奏があったように記憶する。
●リッシャウア=ウィーン国立歌劇場室内O(VANGUARD/1952)
録音はもちろんモノラルだが音質は良好。全体にゆったりしたテンポで古風な響き。小太鼓やフルートも引っ込みがちの録音。
●ボスコフスキー=ウィーン・モーツァルト合奏団(DECCA/1965)
たしかLP12枚組だった「舞曲と行進曲全集」に収められており、私が初めて聴いたこの曲の演奏。小編成で速めのテンポ、明るく屈託のない音楽づくり、クリアなDECCAトーンで聴かせる。ウィーンの香りにも満ち典雅で美しい。乾いた小太鼓の響き、冴え冴えとしたフルート(トリップだろうか)。
なお、この全集には異稿のK610も収められており、ちょっとホルンが埋もれているが素晴らしいオーケストレーションが聴ける。
●アンゲラー&アンサンブル(CHRISTOPHORUS/1979)
TAENZE UND MAERSCHEというこのアルバムにはK610のみが収められている。比較的ゆったりしたテンポでこの曲の魅力を十全に伝える。録音も悪くない。
●コレギウム・アウレウム(EMI/deutsche harmonia mundi/1979)
レコード時代に聴いた演奏はもっと古いものだったように思うが、このディスクには録音1979年との表記がある。低めのピッチで古楽器を使用した演奏(この団体がその先駆けだった)で、暖色系だがテンポ感や緩急のつけ方がユニーク。フルートはコンラド・ヒュンテラーのクレジットがある。
●ハーゼルベック=ヴィーナー・アカデミー(NOVALIS/1990)
古楽器の演奏でa'=430Hzと解説書に明記されている。古風だがやや解釈は尖鋭的でドラマティクな演出(私の趣味ではないが)を聴かせる。フルートの装飾は参考になった。第5曲はK610に差し替えられている。
●ヴェーグ=カメラータ・アカデミカ・ザルツブルク(CAPRICCIO/1988・1989)
セレナーデ&ディヴェルティメント全集の余白に収められているもので、空前絶後の名演。
テンポ、ダイナミクス、バランス、アーティキュレーションなどどれをとっても大変よく考えられており、なるほどこのような演奏の仕方があったのかと納得させられる(ヴェーグにはこのように感じさせらることが少なからずある)。
全曲が静けさに包まれ、極めて格調高く、深々とした響きと余韻、雄弁な音楽づくりで、美しいという表現を超えている。
実は、この後にオルフェウス室内OによるK610のディスクを聴こうと準備していたのだが、この余韻を大切にしたいのでヴェーグ盤で打ち止めとした。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • モーツァルト:ホルン協奏曲第3番変ホ長調K447~その2~

    Excerpt: この曲が編曲ものではないかという仮説が書かれている文献が見つかった。 http://zauberfloete.at.webry.info/200801/article_22.html 筆者は坪井貞.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2008-11-05 21:13
  • シャンドール・ヴェーグ/モーツァルト:セレナーデ&ディヴェルティメント集

    Excerpt: 10枚組のセットが安かったので思わず購入してしまった(CAPRICCIO/1986~1999)。 http://zauberfloete.at.webry.info/201007/article_1.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2010-07-28 22:19
  • アーノンクール/WALZER REVOLUTION(ワルツの革命)

    Excerpt: 注文しておいたアーノンクールの新譜(SONY)が届いた。「ワルツの革命」というタイトル。ヨハン・シュトラウス2世によって19世紀後半のウィーンで完成をみたワルツの源流をたどるという2枚組の企画。収.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2012-02-26 17:48
  • シャーンドル・ヴェーグのモーツァルト

    Excerpt: 堀米ゆず子著「ヴァイオリニストの領分」(春秋社/2015.7)を読んでいたら、シャーンドル・ヴェーグのモーツァルトに関する記述(モーツァルトを弾く鍵)があった。以下抜粋。 Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2015-08-10 21:53
  • くつろいで聴くモーツァルト

    Excerpt: 土曜の午前中はいつもオケの練習なのだが、今日は合唱合わせのため開始時間が夕方となった。自分の練習は午後からすることにして、午前中は、村上春樹:「ラオスにいったい何があるというんですか?」(文藝春秋/2.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2016-02-13 15:12
  • モーツァルト:5つのコントルダンスK609

    Excerpt: ウィーン・フィルのFacebookに、Musician's Development と題して、 Angelika Prokopp Sommerakademie der Wiener Philharm.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2017-12-20 23:21
  • モーツァルトのCD

    Excerpt: 午前中の練習がなかったので(代わりは日曜の夜という最悪のパターン)、久しぶりにメイン・システムでCDを聴いた。モーツァルトの誕生日ということで聴いた曲は下記の通り。 Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2018-01-27 23:59