ミヒャエル・シュトゥーダー/ザ・レガシー~モーツァルト:ピアノ協奏曲第12番イ長調~

ミヒャエル・シュトゥーダーというピアニストは、私にとって30年くらい前のレコード時代、モーツァルトのK414(第12番)とK413(第11番)という2曲のコンチェルトの名演によってのみ、その名前をとどめる存在だった。その後、1990年代にK271(第9番)が追加されたCDが発売されただけで、もう忘れ去られたものと思っていたのだが、最近になって突然、「ザ・レガシー」というセットが発売された。6枚セットで価格は2184円! 
ミヒャエル・シュトゥーダーはスイス、トゥーンの近郊、オーバーディースバッハ生まれ。クラーヴェス・レーベルに上記ピアノ協奏曲他いくつかの録音を残しているが、今回、スイス・ロマンド放送によるライヴ録音も加え、まとまったリリースとなった。
曲目は、モーツァルト:ピアノ協奏曲第9・11・12番、バッハ、ハイドン、シューマン、ショパン、ブラームス、ラフマニノフ、サン=サーンス、ラヴェル、ドビュッシーなどが収められている。

さて、1782年後半の作曲とされているこの曲は、モーツァルト自身の手紙の中にも、この前後の2曲とのセット(K413・414・415)で、「難しすぎることもなくまた易しすぎもせず、専門家をも満足させる作品」として登場する。また演奏のしやすさを考慮してか、どの曲も管楽器はオーボエ・ホルン各2という小さな編成で、場合によっては管楽器は「省略しても良い」という指定がある。
「イ長調」のこの曲、あの第23番と双生児のような作品で、形式・構成などはより簡素・単純化されたものながら、聴けば聴くほどその深さが感じられるという不思議な性格を持っている。第1楽章は質素でモノクローム(この曲全体がそうかも知れないが・・)、第23番よりもこの曲の方が後に作曲されたといわれても納得してしまいそうな「静けさ」に満ちている。第2楽章はクリスチャン・バッハへの追悼の意味で作曲されたらしく、彼の曲がそのままテーマとして使われており、第15番の中間楽章にも似た雰囲気が感じられる。そして終楽章、単純な音形にトリルの微妙な味付けが加わり音楽はゆっくり疾走する。第2主題がニ長調で出る直前の弦のユニゾンの転調へのつなぎのフレーズに私はいつも何とも言えない不自然さ(悪い意味ではなくモーツァルトらしからぬという意味で・・、しかし私はここが好きでもあるのだが)を感じる。それはともかくその後の第2主題も単純な旋律の中に「翳り」が、そしてコーダに近い管弦楽からは「鐘」の音が私には聴きとれる。
そして、ミヒャエル・シュトゥーダーのピアノ、ヘルムート・ミューラー=ブルール指揮、ケルン室内管弦楽団による演奏。録音は1977年スイス、トゥーン市教会。ステューダーの音色・タッチはひじょうに美しく、歌い方も素朴ながら音楽的で大変素晴らしい。特に印象深いのは第2楽章の最後のカデンツァの中のフレーズの一節、長調が短調に変わるところでのその音色の変化には耳を奪われる。
このオケは当時としては珍しく、古楽器的奏法を取り入れた極めて小編成なもので、オーボエの音色も私好みではない。が、会場が残響の多いところなのか快い響きに満ち溢れており、特に第1楽章のエンディング、最後のA-durの和音が静かに消えて行くところは絶品だと思う。
久しぶりにこの演奏を聴いたが、この一曲だけでもこのセットを買う価値があるほどの名演。それにしてもこのセットの価格は安すぎる。

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  • モーツァルト:10番台のピアノ協奏曲

    Excerpt: 先日、第20~27番のピアノ協奏曲をまとめて鑑賞したので、今回はそれ以前の作品を何回かに分けて聴いてみた。 http://zauberfloete.at.webry.info/201206/arti.. Weblog: Zauberfloete 通信 racked: 2012-06-21 23:06