「英雄」:カラヤン=ベルリン・フィル

4月の演奏会でこの曲を演奏する。勉強も兼ねて1~2年前に買ったカラヤン盤(DVD)を取り出し久しぶりに鑑賞した。
私の知る限り、カラヤン&ベルリン・フィルによる公式な録音としての「英雄」は、3回のディスクによる全集、2回の映像による全集にそれぞれ含まれているもので、計5種類あるが、単独で残されているものがこの1982年4月30日、ベルリン・フィル創立100年記念公演のライヴ映像(ベルリン・フィルハーモニー)。なお、ディスクと映像による最後の録音が1984年1月に収録されているので、この演奏はその約2年前のものである。
このとき、カラヤンは74歳。ちょうどこの日、カラヤンは体調を崩し予定の曲目(第九)が変更されたという話も聞く。が、多少足を引きずってはいるものの気合は十分で素晴らしい演奏を聴かせる。何と言っても見どころはやはりカラヤンの指揮ぶり。
あまりにもスマートさばかりが強調されてきたきらいはあるが、歳を重ねるほどカラヤンはきっちりした(?)指揮をするようになったと私は思っている。この演奏会でも、楽章の開始など予備拍をちゃんと取り、左手を巧みに使い、わかりやすく、かつ無駄のない動きに解釈を凝縮させている。第一楽章も3つ振りと1つ振りを見事に使い分けたり、音楽の流れをまず優先しつつ、細部にも気を配る。オケにとってはこれほど安心でき、演奏しやすい指揮はないのではないかと思う。なお、カラヤンは汗を飛び散らせたりしない人、というイメージがあるが、このビデオを観るとそうした思い込みが間違いだったことがわかる。それほど力の入った会心の演奏だったのだろう。この演奏を会場で聴いてみたかった・・。
特筆すべきは、ベルリン・フィル。
弦楽器の最前列は向かって左から、シュヴァルベ(コンマス)、ブランディス、マース、ヴェストファル、クリスト、レーザ、ボルヴィツキ、フィンケという凄いメンバー。バスもヴィット、ツェペリッツが並ぶ。カラヤンの左側からの映像が多かったせいもあるが、このヴィットの弾き姿が素晴らしく、弦がうなっているかのようなダイナミックなもの。トップ奏者だけでなく、チェロは12人のメンバーだし、ヴィオラはカッポーネ、シュトレーレ、土屋らの姿も見える。
木管はブラウ、コッホ、ライスター、ピースク、ホルン:ザイフェルト、クリエール、イェツィルスキ、ラッパはクレッツァーとグロートが並ぶ。ティンパニはもちろんフォーグラー。
目の覚めるような伸びやかでしなやか、かつ一糸乱れぬ高弦、うねる低弦はまさに怒涛のように押し寄せる。そして艶やかでソリスティックな木管、完璧なホルン、要所を見事におさえるトランペットとティンパニ・・。
特に印象的なのはやはりコッホ。1979年の第九の映像から3年しか経っていないのにいやに老け込んでしまった印象はある(この時コッホ47歳)が、実に素晴らしい演奏を聴かせる。美しいフレージング、音色、見事なビブラート。特に、終楽章、348小節からのポコ・アンダンテからの8小節のフレーズを一息で吹き切ってしまうのには驚嘆した。
全体的に、すごいとしか言いようのない演奏で、他に形容する言葉が出ない。行き方が違う、という意見もあろう、が、これがある意味でオーケストラというものの一つの頂点を極めた演奏であると言っても間違いではないだろう。

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この記事へのコメント

2007年01月15日 23:29
はじめまして。うぐいすと申します。
実はここで語られているカラヤンのDVDに
ついて、うぐいすも感想アップしようと思
っていたら先を越されてしまいました(笑)。
しかも、私の感じたのと同じコメントが語
られていますので、うぐいすの書くことが
なくなってしまいましたよ。
この演奏は本当にすごいですよね。基本的
に80年代のカラヤンをうぐいすは評価して
いないのですが、この演奏は別格です。
晩年撮影された、一連のカラヤン・レガシ
ーの映像もこのようなライブ映像だったら
もっとみたいと思うんですが・・・
あの人工的な映像には抵抗あります。
2007年01月17日 22:03
うぐいす様
はじめまして。私もあの人工的な映像は不満です。カラヤンであれば、普通の(?)ライブで十分なのに、なぜあのような撮り方をするのかといつも思います。そんな中で、この「エロイカ」と「アルペン」、「第九(1979年)」、「ニューイヤー」、あと「ハンガリー狂詩曲(1978年ジルヴェスター)」は絶品だと思います。

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